BITTER WINTER

安倍暗殺:反カルト・ヘイトクライム?

by | Jul 19, 2022 | Documents and Translations, Japanese

殺人者の弱い心を刺激したのは、統一教会そのものではなく、統一教会に対するメディアのヒステリーだったのかもしれない。

マッシモ・イントロヴィニエ

Read the original article in English.

Shinzo Abe’s video message to the Universal Peace Federation’s 2021 “Think Tank 2022 Rally of Hope.” Source: Universal Peace Federation.
安倍晋三が天宙平和連合の2021年「シンクタンク2022希望前進大会」に寄せたビデオメッセージ。出典:天宙平和連合

ようやくほとぼりが冷めつつあり、我々は山上徹也がなぜ日本の安倍晋三元首相を暗殺したのかを理解し始めるのかもしれない。全てが明らかというわけではないが、山上は統一教会、いやむしろ2012年の文鮮明師の死後、そこから分かれた最大の集団である文師の未亡人が率いる世界平和統一家族連合に対して恨みを抱いていたと言われている。山上は統一教会や家庭連合のメンバーであったことはなかったが、母親はそうだった。伝えられるところによると、彼女は宗教運動に多額の献金をし、息子はそれを家族の破滅の原因と見なした。

山上は安倍を暗殺する前に、かつて家庭連合の教会として使われていた建物を銃撃して武器を試射した。報道によると、彼は家庭連合の指導者(おそらく文夫人自身)を暗殺したかったが、これは事実上困難であったため、代わりに安倍を殺したと警察に語っている。彼は安倍が家庭連合の宣伝をしたと非難した。実際、安倍は天宙平和連合(UPF)の2つのイベントにビデオメッセージを送っている。この団体は法的には家庭連合から独立しているが、創設者は同じであり、宗教運動と密接な関係を維持している。

安倍は、UPFのイベントにビデオを送ったり、集会に参加したり、その指導者を公式に受け入れたりした数十人の世界のリーダーたちの一人に過ぎなかった。Bitter Winterに掲載されたUPFの研究に記録されているように、これらの指導者には、ドナルド・トランプ、元国連事務総長の潘基文(文師の親戚ではない)、カンボジアのフン・セン首相、ポルトガルの元首相で欧州委員会元委員長のホセ・マヌエル・バローゾが含まれている。教皇フランシスコは、2019年7月1日に私的な会合でUPF議長と接見しており、この会合は教皇庁の公報に正式に記録されている。国連では何千ものNGOが特殊協議資格を有しているが、その中でもUPFは総合協議資格を獲得した主要団体のエリートクラブの一員なのである。

家庭連合も警察も公の場では、殺人犯の母親が文夫人の運動に献金をした時期については言及していないが、信頼できる情報源はBitter Winterに対して、高額献金は数年前に止まったと語った。しかし、彼女の息子はいまになって行動を起こした。何故であろうか?

精神医学上の問題を事後的に診断することは決して薦められないが、山上が正気ではなかったと主張する人々は、間違っていないかもしれない。家庭連合に献金した母親の子供たちがすべて、UPFのイベント参加者を暗殺することによって抗議したわけではないからだ。

しかし、何が起きたのか理解するのに役立つ2つのカテゴリーがある。第1の「ヘイトクライム」は、あるカテゴリー全体に対する加害者の憎悪の現れとして、個々の被害者に対して行われるものと定義される。ヘイトクライムは、2011年に私が人種差別、外国人嫌悪、宗教的不寛容と闘うためにOSCE(欧州安全保障協力機構)の代表を務めた際の私のポートフォリオの重要な部分であり、私はこの問題に関するいくつかの会議を主宰した。山上の恨みは、安倍に対する個人的なものではなく、家庭連合の(現実または想像上の)支持者であるというカテゴリーに対するものだった。この意味において、それは典型的なヘイトクライムであった。

第2のカテゴリーは、反カルト暴力である。2018年、私は新宗教運動(反対者や大衆メディアから「カルト」と呼ばれている)と暴力をテーマにした権威ある「宗教と暴力のジャーナル」の特集号をゲスト編集するよう依頼された。私が執筆した序論では、その関係は二つの要素からなっていると説明した。新しい宗教運動は、小児性愛者のカトリック司祭や、イスラムの名を使用ないし誤用するテロリストなどの主流宗教内のグループと同様に、確かに暴力の罪に問われることがあるかもしれない。同時に、とりわけ統一教会を標的にしたいくつかの事件を通して私が示したように、彼らは暴力の被害者であるかもしれないのである。

日本では、オウム真理教という新宗教の指導者と数人のメンバーが1995年に東京の地下鉄で行った致命的なサリンガス攻撃を含む恐ろしい暴力行為を犯した。この特定の事件が、他の国におけるよりもメディアの「カルト」に対する一層敵対的な風潮を作り出した。これはある意味で理解できるが、メディアは一般化とステレオタイプ化が確実にヘイトクライムを生み出すことを常に考慮すべきである。

日本のメディアが統一教会と家庭連合をどのように扱ってきたかを概観してみれば、安倍暗殺後だけでなくそれ以前から、彼らの報道の大部分は敵対的であり、ときにはほとんど侮辱に等しかったことが分かる。彼らが発言の機会を与えたのは、脱会した元信者らや、統一教会に献金した人々の親族を説得して献金返還請求訴訟を起こさせようとする貪欲な弁護士たちだった。もちろん、主流の宗教団体の一部を含む多くの宗教団体で起きているように、献金が強引に勧誘された可能性もあるだろう。しかし、貪欲な弁護士たちは、こうした訴訟で勝ったり負けたりしているのであり、これらの訴訟の個別具体性をはるかに超えて、統一運動は「カルト」としてステレオタイプ化されており、その一方で主流宗教における強引な献金勧誘行為は無視されているのである。

もちろん私は、日本における統一教会に対するメディアの反カルト報道(それは安倍暗殺後も続き、他国のメディアに影響を与えている)が、犯罪を引き起こしたと言っているのではない。結局、何百万人もの人々が同じ記事を読んだにもかかわらず、誰も殺さなかったのである。ヘイトスピーチを組織レベルで扱うことで私が何を学んだかと言えば、それが安定した心を犯罪に仕向けることはないということだ。このため、それは無害だとみなされやすいのだが、それは誤った結論である。なぜなら、弱い心もまた存在するのであり、ヘイトスピーチが彼らに与える影響は破壊的であるかもしれないからだ。

一部のメディアは、起きた事件に対して統一教会になんらかの責任があるかも知れないという考えを読者に植え付けているが、実際には山上氏の不安定な心に影響を与えたのは、まさにメディアの反カルトキャンペーンと、統一教会に向けられたヘイトスピーチであった可能性がある。

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