安倍晋三元首相の暗殺者をめぐる真相は、メディアが描いてきた反統一教会の物語とはまったく異なるものであることを、ファクトチェックの専門家が明らかにした。
マッシモ・イントロヴィニエ
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日本で、極めて重要な一本の記事が発表された。それは軽く目を通して済まされるような記事ではなかった。それは安倍晋三元首相暗殺事件をめぐるお決まりの社説でも、通り一遍の法廷記事でもない。この記事を書いたのは、日本を代表するファクトチェッカーの一人、楊井人文氏である。楊井氏は、山上徹也被告の公判14回のうち12回を実際に傍聴し、そこで自ら目にした事実と、メディアが伝えてきた内容とを突き合わせた。彼の指摘はすべて、裁判の場で山上本人や親族が語った証言への正確な照合に基づいている。そして導き出された結論は衝撃的だ。そこに浮かび上がるのは、数々の事実誤認や省略、さらには歪曲の山であり、報道機関がいかに筋書きに合わない不都合な事実を意図的に無視し、断片的な情報から一種の「道徳劇」を作り上げてきたかという実態だった。
楊井氏は、どこにでもいそうなブロガーなどではない。慶應義塾大学を卒業後、産経新聞の記者として活動し、2008年に弁護士となった。2012年には、誤情報の検証を行うサイト「GoHoo」を立ち上げている。さらに2017年にはファクトチェック・イニシアティブを設立し、2018年には著書『ファクトチェックとは何か』を刊行した。同書は、尾崎行雄記念財団のブックオブザイヤーを受賞している。その経歴は申し分なく、彼の独立性も十分に証明されている。だからこそ、楊井氏がメディアは国民を誤導してきたと指摘するとき、その言葉には重みがある。
楊井氏は何を突き止めたのか。第一に、宗教によって破壊された幼少期という物語は事実ではない。山上が中学2年生の1994年まで、彼の幼少期は「非常に順調」だったとされている。母親による虐待や飢餓、強制的な祈祷といった事実は確認されていない。不安定な存在だったのは祖父であり、時には包丁を振り回し、子どもたちに家を出て行けと怒鳴ることもあったという。経済面でも、家族は年金や会社の収入によって安定していた。兄弟姉妹はいずれも良い学校に進学し、山上自身も、「御三家」と呼ばれる奈良県内でも有数の奈良県立郡山高校に通っていた。山上は私立大学の入試にも合格しているが、進学しなかった理由は、経済的困窮や母親の妨害ではなく、本人が意欲を欠き、その大学を好まなかったためだという。その後、消防士を目指すも断念し、海上自衛隊に入隊。さらに法学部に進学したが、約1年で関心を失い、経済的理由とは無関係に除籍となっている。狂信的な母親によってひとりの優秀な青年の人生が壊されたというナラティブは、こうした綿密な検証からは崩れ去るのである。
第二に、メディアが繰り返し描いてきたもう一つのメロドラマ――母親が長期間にわたって韓国へ渡航していたという話。これも、母親が韓国へ出かけるようになったのは2005年が初めてであり、その時点で子どもたちは全員成人していた。未成年だった時期に母親が家を空けたのは、最長でも二泊にとどまっている。その間、子どもたちは祖父の世話を受け、食事も事前に用意されていた。山上自身も、母親の渡航によって苦労したと訴えたことは一度もない。
統一教会との金銭関係についても、様々な記事の見出しが示すほど単純ではない。確かに、母親が献金した総額は1億円を超えている。しかし2005年以降、家族は統一教会の地元信者コミュニティから毎月返済を受けており、2014年までに、書面による合意に基づいて総額5,000万円が返還されている。山上自身も、この問題はすでに「解決」していたと認識しており、訴訟を起こす意図はなかった。未解決の経済的破綻に追い詰められ、息子が殺人に走ったというイメージは、明らかに事実ではない。
第三に、家庭内暴力の実際の発生源は兄だった。大学入試に失敗した後、兄は母親に激しい暴行を加えて骨折を負わせただけでなく、妹に対しても恐怖を与えていた。その後、兄は精神疾患に苦しみ、最終的に自殺している。山上は次第に兄と距離を置くようになり、兄の自殺後は、家族との関係そのものから身を引いた。犯行に至るまでの5年以上、妹とも一切会っていなかったという。ここでもまた、事実が示すのは迫害ではなく、山上自身による断絶である。

最も衝撃的な事実は、動機に関する部分である。山上は、反安倍的な過激思想の持ち主ではなかった。むしろ、安倍の対韓政策を評価しており、本人も安倍個人に対する怒りを否定している。さらには暗殺当時、安倍氏が再選を支援していた政治家の佐藤啓参議院議員に投票していたことが明らかになった。
山上が、安倍氏と統一教会との関係について得ていた情報の大半は、反カルトジャーナリスト・鈴木エイト氏のウェブサイトからである。山上の当初の計画は、韓国人の教会幹部らを襲撃することだったが、それらの人物が日本を訪問していないと知り、犯行のわずか5日前になって標的を安倍氏に切り替えている。犯行当時、山上は手製銃の製作費用によって200万円を超える借金を抱え、無職のまま追い詰められた状況にあった。本人も、見通しが立たなくなり何らか事件を起こさないと思ったと認めている。安倍元首相への銃撃は、長年にわたる憎悪の帰結ではなく、土壇場で下された即興的な決断だったのである。

それでも、山上の意図は単なる個人的復讐にとどまるものではなかった。彼が狙っていたのは、世論、すなわちメディアへの影響である。自分の動機が正しく伝わるように、彼は犯行に先立ち、統一教会の施設に向けて発砲していた。さらに、事件後に教会に対して出された解散請求についても、彼はそれを「あるべき姿」と受け止め、歓迎している。暗殺事件をめぐる報道が、統一教会に不利な方向へ展開することを、彼自身が意図し、期待していたことを認めている。
山上はまた、自身の事件をめぐる報道が不正確だったことも認めている。裁判を通じて報道が描いてきたモデルとは異なる自分の姿が明らかになる以上、これまで受け取ってきた多額の支援金を返還してよいとさえ示唆していた。
楊井氏の記事は、主流メディアが作り上げたナラティブに対する正面からの挑戦である。そこでは、統一教会にレッテルを貼ることを急ぐあまり、メディアが重要な事実を切り捨ててきた実態が明らかにされる。母親による虐待が存在しなかったこと、教会との間で金銭的和解が成立していたこと、安倍氏への敬意、標的の変更が犯行直前だったこと、そして借金と絶望が果たした影響。そこから浮かび上がるのは、宗教による被害者が暗殺者へと変貌したという物語ではない。家族と断絶し、借金に押し潰され、テロという手段によって教会にダメージを与えようとした、一人の放浪者の姿である。楊井氏が示唆する真のスキャンダルとは、犯罪そのものだけでなく、それを歪めてきたメディアの姿勢にある。
暗殺者は、自らの動機が理解されることで、統一教会にダメージを与えようとしたのである。一方でメディアは、彼のライフストーリーを歪めることで、その目的に結果的に手を貸してしまった。その代償として損なわれたのは、国民が真実を知る能力である。メディアは、絶望した一人の人間をシンボルへと変え、家族の悲劇を政治的な寓話に仕立て上げ、複雑な事件を単純な道徳劇へと押し込めた。楊井氏のファクトチェックは、この事件の失われた複雑さを取り戻し、正確さを欠いたジャーナリズムはもはやジャーナリズムではなく、プロパガンダにすぎないという事実を改めて突きつける。裁判は終結に向かいつつあるが、ファクトチェックはまだ始まったばかりだ。おそらく、最も不都合な真実とは、この一連のドラマにおいて、最も無責任だったのは暗殺者ではなく、報道機関だったという点ではないだろうか。

Massimo Introvigne (born June 14, 1955 in Rome) is an Italian sociologist of religions. He is the founder and managing director of the Center for Studies on New Religions (CESNUR), an international network of scholars who study new religious movements. Introvigne is the author of some 70 books and more than 100 articles in the field of sociology of religion. He was the main author of the Enciclopedia delle religioni in Italia (Encyclopedia of Religions in Italy). He is a member of the editorial board for the Interdisciplinary Journal of Research on Religion and of the executive board of University of California Press’ Nova Religio. From January 5 to December 31, 2011, he has served as the “Representative on combating racism, xenophobia and discrimination, with a special focus on discrimination against Christians and members of other religions” of the Organization for Security and Co-operation in Europe (OSCE). From 2012 to 2015 he served as chairperson of the Observatory of Religious Liberty, instituted by the Italian Ministry of Foreign Affairs in order to monitor problems of religious liberty on a worldwide scale.

