この法律は「心理的服従」という新たな犯罪を創設し、主流の医療を批判する可能性を制限し、宗教や信仰の自由を深刻な危険にさらしている。
マッシモ・イントロヴィニエ
4月9日、フランスは数か月にわたる議論の末、ついに新たな改正反カルト法を可決した。政府は上院を説得できず、4月2日に再び上院が条文全体を否決した。しかし、フランス独特の制度の下では、法案に関して上院と下院が相容れない立場を表明した場合、最終的には下院の投票が優先される。 政府はこの条文に賛成するよう下院議員に激しく働きかけたが、下院でも反対は大きく、法案は146票の「賛成」、104票の「反対」で可決された。
しかし、この法律は可決されたものの、同法が直面した大きな反対は、おそらくその執行に影響を与える可能性がある。この法律の名称は、「カルト的逸脱との戦いの強化」に関するものである。「カルト」に対する新たな取り締まりの理由として、MIVILUDESが受け取る「通報」(フランス語で“saisines”)の数が増加していることがあげられる。「Bitter Winter」が立証したように、「通報」は実際の事件の報告ではなく、MIVILUDES に送られた簡単な質問が含まれており、間違っていたり操作されていたりする可能性が高い。
また、新型コロナウイルス感染症の期間中に「カルト」が成長し、一部が反ワクチンの考えを広めたとも言われている。したがって、「必要な治療を放棄させるか受けさせないための挑発」という、懲役1年と罰金が科せられる新たな犯罪が創設される。明らかに、これが引き起こす影響は新型コロナウイルスやワクチンをはるかに超えている。国務院が法案を検討した際、言論の自由と「科学的議論の自由」に対する脅威であるとして、この条項を削除するよう勧告したことに留意すべきだ。しかし、政府は国務院の勧告を拒否し、この条項を残した。上院での争いは、医療会社の疑わしい行為を暴露する「内部告発者」を保護する新たな条項の導入につながっただけだ。
反カルトの手段も強化される。反カルト団体が「カルト」を相手取った訴訟に民間機関として出席することが許されたり、裁判官や検察官は、彼らが審判対象とし、あるいは起訴しているグループに関してMIVILUDESの意見を求めることが奨励されたりするようになるのだ。また議会の修正により、MIVILUDES に新たな強化された地位が与えられた。
新しい法案の核心は、「心理的服従」という新たな犯罪の創設である。法案は以下のように述べている。「重大な、ないし、反復継続する圧迫、または、人の判断を変更させることができる技術の使用によって、人を心理的ないし身体的服従状態に置き、その人の身体的または精神的健康状態に重大な悪化を引き起こすか、あるいは、本人にとって極めて不利益な一定の作為・不作為に導いた者は、懲役3年および375,000ユーロの罰金の刑に処せられる。」
ただし、その「精神的服従」が、未成年者または「年齢、病気、虚弱さ、肉体的または精神的な欠陥、妊娠などにより特別な脆弱性を抱えていることが、明らかであるか加害者に知られている人」を巻き込んだ場合には、刑罰は「懲役5年および750,000ユーロの罰金」となる。 「これらの違反が、あるグループの事実上または法律上のリーダーによって、その活動に参加する人々の心理的または身体的服従を生み出し、維持し、または利用する目的または効果を狙って行われた場合」(「カルト」の指導者と読むべき)、あるいは「違反がオンライン公共通信サービスの使用またはデジタルまたは電子媒体を通じて行われた場合」(ウェブサイトやソーシャルメディアを通じた「カルト」のプロパガンダをターゲットにしている)にも、同様の重罰が適用される。
上記の状況のうち2つが同時に発生した場合、または「その違反がある組織化されたギャングの一部を構成するメンバーによって、その活動に参加する人々の心理的または身体的服従を生み出し、維持し、または利用する目的または効果を狙って犯された場合には、刑罰はさらに7年間の懲役および 100 万ユーロの罰金に過重される。反カルト主義者にとって、「心理的服従」を実践する「カルト」は定義上「組織化されたギャング」である。
これが「脆弱性の悪用」に関する既存の規定とどのように異なり、なぜ政府が新たな犯罪によって現行法では捉えられていない「カルト的逸脱」を犯罪化できると信じているのかを理解することが重要である。「脆弱性の悪用」は、被害者が「脆弱な状況」にあり、心理テクニックによって、たとえば多額の献金をしたり、「カルト」リーダーに性的に身を委ねたりするなどの、自己加害行為に誘導された(と申し立てられた)場合に処罰された。新法の序論的コメントの中で政府は、「アブ・ピカール法(2001年の反カルト法)の現行の条文では、被害者を加害者の支配下に置くことを目的とした作用や技術によって決定される心理的または身体的服従状態を、直接的に有罪とすることは認められていない」と主張している。
新しい犯罪は2つの点で「脆弱性の悪用」とは異なる。第一に、被害者が「脆弱」な状況にある必要はない。誰もが「心理的服従」の被害者になる可能性があるのだ。第二に、被害者の精神的健康状態の悪化と、「洗脳」技術が被操作者を自己加害に導くおそれがあるという事実とを、「かつ」ではなく「または」で結びつけていることは極めて重大である。同じ紹介報告書が説明しているように、この「または」により、被害者が自己加害行為に誘導されたことが証明できない場合でも、「心理的服従」を処罰することが可能になるのである。「精神的健康の悪化」が起こったと主張するだけで十分であろう。
報告書はほぼ当然のこととして、心理的服従の状況は通常「被害者の精神的健康の悪化」を引き起こすと明記している。したがって、被害者が自傷的であると分類できる特定の行為を何も行っていなかったとしても、謎めいた「心理的服従状況を作り出す技術」を使用すれば処罰されることになる。結局のところ、反カルト主義者たちは、「カルト」への加入やそこに留まり続けること自体が精神的健康にとって危険であると主張しているのである。そして覚えておいてほしいのは、この理論を推し進めるために反カルト団体が裁判に参加することになり、疑問がある場合には検察官と裁判官はMIVILUDESの意見を求めるよう助言されるということだ。
新宗教運動の研究者のほとんどは、「洗脳」は存在せず、それを有罪とすることは基本的に虚偽であるという点で一致している。宗教的説得の通常のプロセスが、権力が「通常」であるとみなす信仰の対象と実践を持っている場合には「洗脳」はないと主張される。信念や実践が非伝統的であったり不人気であったりする場合には、これは「洗脳された」被害者だけに採用される証拠として提出される。なぜなら、彼らは「心理的服従」の状態に置かれているからである。
フランス政府は、この新法によって信仰が犯罪化されるのではなく、特定の信念を奨励する技術のみが犯罪化されるのであると厳粛に宣言する。しかし実際には、ある信仰が「違法な」技術によって教え込まれたのだとされる証拠は、反カルト主義者、MIVILUDES、社会の大多数、あるいはメディアがそれを「カルト的逸脱」とみなしているということなのである。主流の国際的学者たちが指摘するようにE、フランスは「セクト」に対するこだわりのゆえに、宗教や信仰の自由に関しては、民主主義世界における最悪の国の一つとなっている。