大法廷は全会一致で,判断能力のある成人患者は,輸血を含むいかなる医療行為も拒否する権利を有するとの判決を下す。
マッシモ・イントロヴィーニュ
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2024年9月17日,ヨーロッパ人権裁判所(ECHR)の大法廷は「ピンド・ムーリャ 対 スペイン」判決で,エホバの証人に再び大きな法的勝利をもたらした。今回はしばしば議論される輸血の問題についてである。この判決は事実上,大法廷の裁判官17人が全員一致で下した珍しいケースとなった。(8人は問題の本質ではなく,非財産的損害の問題についてのみ反対意見を表明した。)
本件は,スペイン在住のエクアドル人女性,ロサ・エデルミラ・ピンド・ムーリャに関するものである。2017年5月,ピンド・ムーリャは子宮筋腫と診断され,子宮摘出手術を勧められた。彼女は手術を控え,2017年8月4日に輸血を拒否する意思を記した新たな永続的委任状(DPA)を,同様の文面の医療事前指示書(AMD)と共に作成し,スペインのAMD全国登録簿に登録した。最終的に子宮摘出手術は延期された。
2018年6月6日,ピンド・ムーリャは子宮筋腫による大量出血のためソリアの病院に入院し,ヘモグロビン値は4.7g/dlまで低下した。治療に当たっていた婦人科医は輸血を勧めたが,彼女は拒否し,その意思を裏付ける「同意書」に医師と共に署名した。トラネキサム酸が投与されて出血は止まり,マドリードのラパス病院へ移送され,子宮動脈塞栓術(術後の出血を防ぐことを目的とした低侵襲手術)を受けることになった。
救急車でラパス病院に搬送する間,医師たちは,必要と判断した「あらゆる治療」を行うことを許可する一方的な裁判所命令を取得した。医師たちは,彼女に意識があることや,DPA,AMD,またソリアの病院の医師との話し合い,そして「同意書」への署名によって,彼女が輸血を繰り返し拒否していたことを当直裁判官に知らせなかった。ピンド・ムーリャも裁判所命令については知らされなかった。
ラパス病院に到着した彼女は,子宮動脈塞栓術を受けると思っていたが,手術室に運ばれ,鎮静剤を打たれ,子宮摘出手術と3度の輸血を施されてしまった。
退院後,ピンド・ムーリャは当直裁判官の命令を不服として訴訟を起こした。スペインにおいては,第一審裁判所,控訴裁判所,また憲法裁判所によって訴えは棄却され,彼女はECHRに申し立てを行った。
大法廷は冒頭で,このピンド事件を(訴訟手続きに介入したフランスが関連付けようとした)自殺幇助に関する事件と混同すべきではないことを明らかにした。ピンド・ムーリャは死を望んでいたわけではなく,輸血を避けながらも生きたかったのだ。エホバの証人である彼女は,輸血は「血……を避けている」ようにという聖書の教えに反しており,たとえ「医療上の緊急事態であっても輸血を受け入れ」ないことによって,「エホバの命令に従」うべきであるという教えに同意していた(「ものみの塔」[研究用]2023年2月号,20–25[23]ページ,「命という贈り物を大切にする」)。
大法廷は,この事件は成人に関するものであり,エホバの証人である親が未成年の子どもに対する輸血を拒否する権限については,本判決で取り上げる必要はないとも指摘した。
裁判官は繰り返した。成人の場合,「医療において,個人の自律性の尊重は一般的かつ基本的な原則である。それは,特に自由意思によるインフォームド・コンセントという広く認められたルールによって守られている。法的に判断能力のある患者は,自分の健康状態,利用可能な治療法,および治療を受け入れない場合の影響について適切に説明を受け,治療を受け入れるかどうかを自由に決定できる」。(138節)たとえ治療の拒否が「致命的な結果を招くとしても,精神的に判断能力のある成人患者の同意なしに医療行為を強制することは,……身体の不可侵性を侵害することになり」,ヨーロッパ人権条約に違反する(139節)。
ピンド・ムーリャは,成人のエホバの証人が輸血を拒否する権利を,ECHRによって認められた2つの事件,「モスクワのエホバの証人ほか 対 ロシア」(2010年6月10日)と「タガンログLROほか 対 ロシア」(2022年6月7日)に言及した。スペイン(とフランス)が異議を唱えているように,「これらの事件の背景は今回の事件とは全く異なっている。それらは,ロシアにおけるエホバの証人の組織の解散と活動の禁止に関するものであった。それゆえ,条約の中で争点となった権利は,特に宗教および結社の自由という異なるものである。患者が医療行為を拒否する権利については直接扱われていなかったものの,これらの判決で,エホバの証人の信条に関し,……特定の医療を受け入れる,もしくは拒否する自由は,自己決定および個人の自律という原理に欠かせないと断言していることからすれば,これらの判決は再考するに値する」とECHRは述べた(140節)。
スペインは今回の事件における医師の決定は,患者の生命を救うために不可欠であり,正当であると異議を唱えた。ECHRはこれに同意せず,「通常の医療においては,判断能力のある成人患者は,そのような決定が極めて重大な,たとえ致命的な結果を招くとしても,自由かつ意識的に医療行為を拒否する権利を有するということが,(ヨーロッパ人権)条約第8条の規定である」とスペインに対し,繰り返し指摘した(146節)。大法廷は,「モスクワのエホバの証人ほか 対 ロシア」の裁判に言及し,「患者の生命または健康を維持するという公共の利益は,患者自身が自らの人生を決定するという患者の利益に譲歩しなければならない」(148節),また「患者の希望は最重要事項として扱われなければならない」(149節)と指摘した。
今回のピンド事件では,彼女が輸血拒否の意思を明確に表明していたかどうかが一つの争点となった。強制的に輸血を行ったことを正当化するために,スペインの裁判所とラパス病院の医師たちは矛盾した議論を展開した。まず,彼女の輸血拒否の意思は書面で記録されていなかったと主張した。(しかし実際には,DPAとAMD,また署名した「同意書」により書面で記録されていたことを大法廷は指摘した。)他方では,手術の時点で彼女には判断能力が十分あり,意識もはっきりしていたので,DPAやAMDを持ち出す必要はない,と主張した。(大法廷は,意識がはっきりしていたのであれば,輸血を許可する合法的な根拠もないと指摘した。)大法廷はこれらの矛盾した主張を厳しく批判した(159–182節)。
大法廷は一般的な事前指示書に関して,次のようにも述べた。「[患者が特定の医療行為を拒否することを事前に表明する]事前指示書に法的効力を付与するという原則も,それに関連する形式的および実際的な手順も,締約国の裁量の範囲内である」(153節)。スペインは事前指示制度を導入することを強制されたわけではないが,導入したからには事前指示の内容を尊重しなければならない。大法廷は,事前指示書を正式に認める制度がない国であっても,オビエド条約(欧州評議会の46カ国のほとんどが批准)第9条が「事前に表明された意思は……尊重されるものとする」と定めていることを指摘した(151–153節)。また「患者の希望は最重要事項として扱われなければならない」(149節)と強調した。
本件でECHRは次の点に言及した。医師たちは,必要と判断した「あらゆる治療」を患者に施す許可を裁判官に求めた際,「その前夜にソリアの病院で,彼女が輸血拒否の意思を表明し,事前に同意書を作成したこと,また臨床医(B.L.医師)が関連する同意手続きを行ったことを当直裁判官に伝えなかった」(159節)。つまり,医師たちは彼女の意向を裁判官に誤解させたのである。
さらにECHRはこう指摘した。「差し迫った医療処置について,医療スタッフと申立人との間に実質的なコミュニケーションがなかった。通常の同意手続きもなされず,当直裁判官が下した決定についても全く伝えられなかった」(167節)。
ピンド・ムーリャが輸血を受け入れないと医師に告げた時点で,彼女に判断能力がなかったという証拠も,その後に心変わりしたという証拠もない。それどころか,ラパス病院に入院した際,「その時点では意識があり,思考がはっきりしていた」ことが病院の記録で確認されていると指摘した(167節)。従ってECHRは,強制的に輸血を行ったことについて,「本件で実行された意思決定プロセスは,(ヨーロッパ人権)条約第8条によって保護されている申立人の自律性を十分に尊重するものではなかった。彼女はその自律性を行使して,宗教の重要な教義を守りたいと願っていた」と結論づけた(183節)。
大法廷は,条約第9条(思想,良心および宗教の自由に対する権利)に照らして考慮すると,条約第8条(私生活を尊重する権利)に基づくピンド・ムーリャの権利が侵害されたと結論づけ,スペインに対し,非財産的損害として1万2000ユーロ(約180万円),費用および経費として1万4000ユーロ(約210万円)の支払いを命じた。
この重要な判例が,いまだにエホバの証人の輸血に関する教義に反対し,こうした反対意見に基づき,国内の宗教団体の法的地位を脅かすような手段を講じることさえする国家に対し,国際法に違反していると認識させることを期待する。国際法は,判断能力のある成人患者が,どのような状況においても,医療行為を拒否することを認めており,宗教上の理由でそうする人々の信教の自由を保護している。