フランスの弁護士パトリシア・デュバル氏が、国連の4人の特別報告者に送った報告書。日本の反カルト運動の中で、特に深刻な問題を指摘している。
パトリシア・デュバル
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児童の宗教または信条の自由を保障している「児童の権利に関する条約」(以下「条約」という)第14条1項を、悪意をもって歪めた解釈に基づき、日本は少数派宗教の信者の子どもたちを保護し、親の信仰から救出する必要があると決定した。なぜなら、日本当局は「児童の場合には必ずしも自由意思によって宗教等を信仰しているとは限らない」と主張しているからである。
条約第14条2項、および市民的及び社会的権利に関する国際規約(自由権規約)第18条4項で保護されている、親が自らの宗教的信念に基づいて子どもを教育する権利を完全に無視し、日本政府は特に統一教会(現在の正式名称は「世界
平和統一家庭連合」だが、いまだに旧名称で呼ばれることが多い)とその信者を標的とする新たな支援の充実・強化策を立案した。
この新たな取組は『「旧統一教会」問題に係る被害者等への支援に関する関係閣僚会議』と題され、2024年1月19日に首相官邸で開かれた関係閣僚会議で正式に採択された。その内容には、未成年の子どもたちを親の信仰から引き離し、対立を煽る一連の「支援策」が含まれている。その結果、子どもたちは新たな後見人の任命を請求できるようになり、さらに、国家が資金を提供する弁護士を通じて、親が統一教会に献金した資金の返還を裁判で求めることが可能になる。
2024年1月に採択された政府の措置(以下、「取組」)では、次の方策が実施される。
1. 小学校の子ども向けに、イラストやインターネット上のチャットボックスを通じて、宗教的信念に関連する児童虐待について教える。この虐待には、子どもを宗教活動に参加させること、地獄の概念を用いた厳格な道徳観の押し付け、信仰告白などが含まれる。
2. 人権教室の啓発セッションを通じて、宗教団体への献金に関する「消費者教育」を行い、特に統一教会の「違法な経済活動」を強調することで、子どもたちに対し、親の献金によって自分たちが陥るかもしれない経済的影響について認識させる。
3. 子どもが記入できるSOSミニレターや、相談窓口の電話番号が記載されたリーフレットを配布し、子どもがさらなる質問をしたり、相談員と話せるようにする
4. 統一教会の脱会者によって訓練を受けたカウンセラーによる相談サービスの提供。
5. 「親の宗教に不安を感じる」子どもへのカウンセリングを実施し、必要に応じて精神医療機関へ紹介。
6. 生活困窮や「普通の社交活動」ができないと訴える子どもを弁護士に紹介し、親の教会への献金の取り消しや損害賠償請求を支援する。
7. 「宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A」に基づき、虐待と判断された場合に親権の停止や一時的な保護措置を求め、親の影響から子どもを「保護」する。

本取組の目的は、「虐待等の被害を受けていることを認識しづらい、声を上げづらい宗教2世等のこども・若者が相談しやすい環境の整備」である。
子どもたちが、信仰を持つ親によって「虐待を受けている」と「認識」できるようにするため、以下の措置が強化される。「学校等を訪問して行う『人権教室』の実施先の拡大(小学校から中学・高校へ)、小中学校の生徒への『こどもの人権SOSミニレター』の配布」。(法務省)
本取組では、「学校現場における教育はもとより、これとの連携の下に行われる法務省の人権擁護機関による『人権教室』、出前講座等の消費者教育は、こども・若者が視野を広げ、多角的なものの考え方を身につける上で、極めて重要である。」とされている。
つまり、「人権擁護」機関の役割は、子どもたちに対して親の信仰に対する「批判的思考」を育てることにある。
本取組では、「保護者等による信仰を理由とするものであっても、その行為によっては、こどもに対する人権侵害に当たる場合もあることを理解させ、啓発活動の強化」するとしている。
この方針は、2024年4月30日に4人の国連特別報告者が日本政府に対して正式な書簡を送るきっかけとなったガイドラインに基づいている。このガイドラインは、厚生労働省が2022年12月27日に発表した「宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A」(以下「ガイドライン」または「Q&A」)と題された文書である。
このガイドラインには、以下のような内容が含まれている。
・ 宗教活動等への参加を強制することは「心理的虐待」に当たる。
・ 児童に対して自身の性に関する経験を他者に開示することを強制する行為は「性的虐待」に該当する。
・ 激しい言葉での叱責や「地獄に落ちる」などの言葉を用いての脅し等により幼少期からの継続的な恐怖の刷り込み等は児童虐待に当たる。
要するに、法務省の人権教室で提供される「教育」は、子どもたちに宗教のせいで幼少期から親に虐待されてきたと認識させることを目的としている。

本取組によると、「宗教との関わりに起因した潜在的な悩みについて、こどもたちが法務省の人権擁護機関に相談できることや学校等を通じてスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーに相談できることを伝える」ことも目的の一つとされている。
この取組では、これまでに行われた施策の実績として次の数字を示している。「令和4年度における人権教室の実施回数(大人の人権教室を除く。)は約12,300回」
また、2024年1月以降の「法務省の取組」として、以下の施策が挙げられている。「こどもが気軽に法務省の人権擁護機関に相談することができるよう、相談ツールの利用機会の拡大。」「毎学期に全小中学生に配付しているSOSミニレターの設置場所の拡大(児童相談所、児童養護施設、放課後児童クラブ等への新規設置)」。
また、相談事例も表記されており、その一例として 「親の宗教のことで悩んでいる。」 という相談が挙げられている。さらに、本取組は次の配布実績も示している。「令和5年度第1・第2四半期のSOSミニレターの配布枚数は約1125万枚。」「LINE人権相談周知用カードの配布や設置」。
つまり、ここで問題となることは、実際の虐待や「被害者」の存在が確認されていないにもかかわらず、親が「精神的操作」を受け、それが子どもにも及ぶ可能性があるという曖昧かつ恣意的な概念に基づいて、未成年の子どもたちを標的とした大規模な、家庭を不安定に陥らせるキャンペーンが実施されているという点である。

Patricia Duval is an attorney and a member of the Paris Bar. She has a Master in Public Law from La Sorbonne University, and specializes in international human rights law. She has defended the rights of minorities of religion or belief in domestic and international fora, and before international institutions such as the European Court of Human Rights, the Council of Europe, the Organization for Security and Co-operation in Europe, the European Union, and the United Nations. She has also published numerous scholarly articles on freedom of religion or belief.


