曖昧に提示された社会的基準に対する違反は、自由権規約第18条第3項に基づく宗教または信念の自由の制限を正当化するものではない。
パトリシア・デュバル著
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国際自由権規約第18条第3項によれば、すべての制限は「公共の安全、公の秩序、公衆の健康若しくは道徳又は他の者の基本的な権利及び自由を保護するために必要」でなければならない。
- 公共の福祉
この制限事由は限定列挙であり、他の事由は許されない。「公共の福祉」はこの事由として列挙されていない。
委員会は、規約第18条第3項に基づく宗教または信念の自由に対する可能な制限に関する一般的意見第22号で、以下のように述べている:「 課される制限は法律によって規定されなければならず、また、第18条で保障された権利を侵害する形で適用されてはならない。委員会は、第18条第3項は厳密に解釈されるべきであると考える。同条項に明記されていない事由による制限は許されず、それがたとえ規約で保護された他の権利(例えば、国家安全保障)に対する制限として許される場合であっても、許されない(第8条)」
「公共の福祉」の保護に関しては、自由権規約人権委員会は、この概念があまりにも曖昧であり、第18条第3項に列挙された制限事由のいずれにも該当しないと認定している。
2014年、委員会は日本に対して非常に明確な勧告を行った。:「22. 当委員会は、『公共の福祉』の概念が曖昧かつ無限定であり、規約(第2条、第18条及び第19条)で許容される範囲を超える制限を許す可能性があることに対する懸念を、もう一度繰り返し表明する。当委員会は、前回の総括所見(CCPR/C/JPN/CO/5、第10項参照)を踏まえ、締約国に対し、第18条第3項および第19条に定められた厳格な要件を満たさない限り、思想、良心および宗教の自由または表現の自由に対していかなる制限も課さないよう強く求める。」(総括所見、2014年8月20日、CCPR/C/JPN/CO/6、太字による強調は筆者)

本件において、統一教会に対する解散命令請求は、宗教法人法第81条1項に基づき、著しく公共の福祉を害したことを理由に求められている。
この宗教法人法の条項は、上述した要件を充たしておらず、解散の根拠とすべきではない。
さらに、文部科学省は、統一教会の信者が献金を勧誘し、その勧誘によって「親族を含む多くの人々の平穏な生活を害した」ため、公共の福祉を害したと主張している。
しかし、「市民や親族の平穏な生活」は、自由権規約第18条第3項のもとでは保護されておらず、信仰の表明に対する制限、特に教会の解散、を正当化する他者の基本的な権利とはみなされていない。
制限は、国が信仰または信念の表明を制限しなければならない極端な状況でのみ認められる。例えば、健康が危険にさらされる場合(例:宗教儀式における薬物使用)、公共の安全や秩序に対する脅威(例:テロ行為)、道徳(例:ポルノに関する制限)、あるいは他者の基本的な権利に関わる場合などである。
1985年に国際法専門家の国際会議で採択され、この分野における権威となった「市民的及び政治的権利に関する国際規約における制限および逸脱条項に関するシラキュース原則」は、個別の人権制限条項に関する解釈原則を含んでいる。
特に、「他者の権利・自由」や「他者の権利や社会的評価」に関して、同原則は以下のとおり述べている:「36. 自由権規約で保護されている権利と、保護されていない権利とが対立する場合、自由権規約が最も基本的な権利・自由の保障を目的としているという事実を認識し、このことに配慮すべきである。」
これは、宗教または信念の自由という基本的な権利が、基本的な権利ではないところの他者の権利に優先することを意味する。他者が、幸福や平穏な生活を乱されないことは基本的な権利ではなく、宗教団体の解散を正当化しない。

- 社会規範
文科省は、統一教会による害悪の根拠として、日本の裁判所が、「社会通念」違反、あるいは、「社会的相当性」の逸脱を理由に、信者による献金勧誘行為を不法行為と判断した32件の認定を挙げる。
しかし、自由権規約人権委員会は、日本が締約している自由権規約のもとでは、新宗教ないし少数派宗教の信仰や宗教活動が、たとえ支配的な主義と相容れず、社会から受け容れられなかったとしても、保護されるということを極めて明確に示している。
委員会は、一般的意見第22号において、自由権規約第18条の解釈について次のように詳述している:「2. 第18条は、有神論、無神論、非宗教的な信仰を保護すると同様に、宗教や信仰を表明しない権利をも保護する。「信仰」や「宗教」という用語は広く解釈されるべきである。第18条の適用は、伝統的な宗教や、伝統的な宗教類似の組織的特徴を持ち活動を行う宗教や信仰に限定されるものではない。したがって委員会は、いかなる宗教や信念であっても、新しく設立されたから、あるいは、支配的宗教共同体と敵対する可能性のある少数派宗教だからなど、いかなる理由によるのであれ、差別を受ける傾向に対して懸念を抱く。」(太字による強調は筆者)
新宗教やその表現は、たとえ多数派と敵対するものであっても保護される。
また、「社会通念」や「社会的相当性」は、宗教的信仰や宗教活動の分野においては正当な基準とならない。
宗教組織を維持するための献金勧誘のような宗教活動は、この分野において、多数派の意見や多数派の活動と比較して評価されるべきではない。
さらに、国家は宗教問題における中立義務の一環として、少数派に対する敵意や嫌がらせから少数派を保護する義務がある。
2024年4月30日、4人の国連特別報告者が日本政府に対して公式文書を送った。特別報告者は、各加盟国における特定の人権問題を監視し、国連人権理事会に報告するために任命された独立の専門官である。今回の4人の特別報告者は、宗教または信念の自由、教育の自由、結社の自由、表現の自由をそれぞれ担当する者達であった。

これらの報告者達は、エホバの証人からの報告を受け、日本における憂慮すべき状況を警戒するようになった。そして日本の首相に公式文書を送り、その中で彼らは「宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A」の発行などを通して、日本において少数派宗教に対して「攻撃と脅威のパターンの現出」が見られることに対し、「深刻な懸念」を表明した。
特に、彼らは以下の点を強調した:「ガイドラインのいくつかは、『社会慣習』、『社会通念』ないし『社会的相当性』からの逸脱といった曖昧な概念をもって虐待の認定基準としており、このことは、多様な宗教・信仰の自由な表現に対する本質的制約となる。」
この公式文書作成に際して4人の特別報告者は、このような概念による信者の権利制限の禁止に適用可能な国際人権文書や先例を全面的に検討した。
日本のような国家は、宗教や信念の分野で、多様性を維持し保護する義務を負っている。国家は、宗教的信念の表現に関して「規範」を定立する権利を有していない。そのように解釈しなければ、新宗教や少数派の信仰はすべて違法とされてしまう。
したがって、国内の裁判所は宗教活動に対して「社会的相当性」や「社会通年」に反するとの評価をすべきではなく、国際人権基準の下では、そのような判決に基づいて宗教法人に解散命令を下すことはできない。

Patricia Duval is an attorney and a member of the Paris Bar. She has a Master in Public Law from La Sorbonne University, and specializes in international human rights law. She has defended the rights of minorities of religion or belief in domestic and international fora, and before international institutions such as the European Court of Human Rights, the Council of Europe, the Organization for Security and Co-operation in Europe, the European Union, and the United Nations. She has also published numerous scholarly articles on freedom of religion or belief.


