フランスの弁護士パトリシア・デュバル氏が、国連の4人の特別報告者に送った報告書の第2部:日本の「取組」によれば、宗教的信仰は精神疾患の一種と見なされる。
パトリシア・デュバル
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親の統一教会に対する信仰によって子どもたちに生じたとされる問題を「救済」するために、日本の文部科学省は、以下のイニシアチブを「取組」の一環として提示した。「悩みや不安を抱える子供の相談体制を確保するため、令和5年度予算においてスクールカウンセラー(SC)、スクールソーシャルワーカー(SSW)の配置を充実(82億円、それぞれ、SC:全公立小中学校27,500校、SSW:全中学校区10,000校区への基礎配置に加え、重点配置を措置)。」するとされている。
国連特別報告者から懸念が示された「宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A」のガイドライン(日本語リンク)は、カウンセラーやソーシャルワーカーに広く配布され、どのような虐待を探すべきかが周知された。さらに文部科学省の取組には、「また、『宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A』について(通知)」(令和4年12月28日)を各教育委員会等に通知し、宗教に関係することのみを理由として消極的な対応を行わないこと、Q&Aの内容が適切に周知されるよう、SC、SSW等を対象とする研修等においてQ&Aについて扱うように周知した。」、「Q&Aに関するSC・SSWや教職員の認知を高めるため、令和5年1月,6月,9月に文部科学省が開催した行政説明等において上記Q&Aの内容について周知」するとされている。
「ガイドライン」に加え、「取組」では統一教会の元信者や脱会者を講師として、各種カウンセラーの研修を実施することが次の様に定められている。「各相談窓口の相談対応者が被害者等の心情等の理解を深めるために元信者や宗教2世等の方々に研修講師になっていただくなど、元信者や宗教2世等の方々と連携。」
つまり、カウンセラーに対する研修は、統一教会の「犯罪行為」や、その信者に対する「精神的操作」とされるものについて、教え込みをすることであると結論づけられる。
この「研修」と、宗教における児童虐待への「ガイドライン」に基づき、カウンセラーやソーシャルワーカーは、子どもを親の信仰から「保護」するための判断を下す。
また、「取組」では「日本司法支援センター(法テラス)を中核としたワンストップ型相談体制」も実施するとされている。
このワンストップ型相談体制とは、「弁護士、心理専門家、福祉専門家などが参加するセッションを全国で順次開催」することを指す。
この法律相談サービスは、「全国霊感商法対策弁護士連絡会(反統一教会弁護士ネットワーク)」によって提供され、国家予算で全額賄われる旧統一教会の被害者「救済」の一環として、日本司法支援センターを通じて実施されている。「取組」に基づき、「無料法律相談や弁護士費用等の立替え」が提供された。

「民事法律扶助の積極的な活用」 は、「ガイドライン」に含まれる勧告を実施するために用いられている。ガイドラインの「問4−2」の回答によると、特に、経済的ネグレクト(子どもに十分な経済的支援を提供しないこと) の場合、子どもは親が統一教会に行った献金の取消しを次のように請求することができる。「児童が、児童の保護者に対する扶養請求権等を保全するため、保護者に代わって、法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律第8条第1項の規定による取消権等を行使できる場合がある。実際に児童が権利を行使するためには、児童が保護者に対して扶養請求をして扶養義務に係る債権を確定した上で、取消権を行使しなければならない。」
「取組」ではさらに次のように定められている。「申立てをするためには、弁護士が児童のために活動することが手続の円滑に資するため、児童相談所等が対応するに当たっては、弁護士会等の関係機関と連携して対応することが必要である。弁護士会においては、一定の要件を満たせば児童が費用を負担することなく、弁護士に委任をすることができる制度がある。」としている。
この制度により、未成年の子どもは保護者に対して経済的請求を行い、親が統一教会に行った献金の取消しを求めることが可能となる。
さらに「取組」では、「ガイドライン」の適用を推奨しており、特にガイドラインの「問6−1」では次のように述べている。「宗教等に関する児童虐待を受けている可能性のある児童については、保護者から宗教等の教義に基づく考えや価値観の影響を強く受けている場合があるため、自らの置かれている状況を問題として認識し訴えることが難しい場合がある。置かれている状況を客観的にアセスメントし、児童虐待があると疑われる場合には、児童本人や保護者に対して、児童虐待の定義に基づいて説明、指導を行うことが必要である。」
ただし、「ガイドライン」では次のように追記している。「宗教等の教義に基づく児童への親の行為や考えについて指導によっても改善することが困難である場合も想定され、また、指導等を行ったことを契機として、保護者による児童虐待行為がエスカレートすることや、宗教団体等から家庭に対する働きかけが強まること等も懸念されることから、児童の安全の確保を最優先とし、必要な場合には躊躇なく一時保護等の対応を取ることが必要である。」
つまり、親が指導に従うことを渋った場合、たとえば子どもを宗教活動に参加させることをやめるよう求められても応じない場合、一時保護が「救済策」として検討されるべきだと示唆されている。
子どもが上記の日本司法支援センターによるワンストップ相談型相談会を利用するために、フリーダイヤルを通して相談を申し込むと、「弁護士、心理専門職、福祉専門職等によるワンストップ相談会」が実施され、その後、取組に基づいて関係機関等と連携しながら適切な相談窓口へと紹介される。取組では次の様に記されている。「法テラスを中核としたワンストップ型相談体制において、 被害者等からの相談を幅広く受け付けて適切な支援機関等を紹介し、ニーズに応じた相談対応を実施。」
さらに、「取組」の一環として、厚生労働省では以下の方策を発表している。「法テラスに設置される相談窓口からの案内を含め、精神保健福祉センターに旧統一教会を背景とした心の健康に不安がある等の相談があった際には、相談内容が宗教に関わることのみを理由として消極的な対応をしないよう御留意いただくとともに、必要に応じて 精神科医療機関を紹介するなど関係機関とも連携して適切にご対応いただき、相談支援の推進をお願いいたします。」と協力を依頼している。
この指導は令和4年11月10日付け事務連絡、および令和5年3月17日開催の「令和4年度社会・援護局関係主管課長会議」において周知された。また令和5年8月、各都道府県・指定都市の障害保健福祉担当部局にQ&A資料を配布し、上記対応方針についても改めて周知した。
つまり、子どもが日本司法支援センターのワンストップ相談を利用し、心理専門家と話をした場合、その心理専門家の判断により、精神科医療機関へ紹介される可能性がある。
保健医療機関は「ガイドライン」を受け取り、それに従うよう指示されている。
日本政府によって策定・実施されたこの抑圧的な「取組」 は、統一教会信者の子どもたちを、親の意思に反して国家が「ディプログラミング」することを目的としている。
この「取組」は、科学的根拠がなく既に否定された理論である「マインド・コントロール(洗脳)」に基づいている。すなわち、信仰を不当な影響とみなし、「ディプログラミング」と称して、いわゆる「プログラミング」された精神状態から元に戻そうとするものである。

この理論に基づけば、国家が親に代わって子どもの宗教的教育の選択を行うことになり、それは全体主義国家と同様の状況を生み出す。これは、日本が宗教的中立性の義務に違反し、宗教または信念の自由の保護という国際規約を侵害するものである。
この「取組」は、親が自己の信念に従って児童を教育する権利を侵害しており、日本が署名及び批准している「市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR)」第18条に明確に違反している。規約には「4. この規約の締約国は父母及び場合により法定保護者が、自己の信念に従って児童の宗教的及び道徳的教育を確保する自由を有することを尊重することを約束する。」と記されている。
さらに、この「取組」は、「子どもの権利条約(CRC)」第14条に基づく親の権利をも侵害している。日本政府はこの条文を意図的に曲解しているが、本来の内容は以下の通りである。「2. 締約国は、児童が1の権利(思想、良心及び宗教の自由についての児童の権利)を行使するに当たり、父母及び場合により法定保護者が児童に対しその発達しつつある能力に適合する方法で指示を与える権利及び義務を尊重する。」
日本政府が実施するこの「取組」と方策は、統一教会信者にとって深刻な状況を生み出しており、国連の人権機関による早急な対応と行動が求められる。
また、この「ガイドライン」は、特定の宗教運動だけでなく、宗教全般を標的にしている。何の対応もなされなければ、統一教会向けに策定されたこの計画が、将来的には他の宗教団体にも拡大されるであろう。

Patricia Duval is an attorney and a member of the Paris Bar. She has a Master in Public Law from La Sorbonne University, and specializes in international human rights law. She has defended the rights of minorities of religion or belief in domestic and international fora, and before international institutions such as the European Court of Human Rights, the Council of Europe, the Organization for Security and Co-operation in Europe, the European Union, and the United Nations. She has also published numerous scholarly articles on freedom of religion or belief.


