新宗教運動が暴力の犠牲者となるとき、即座に彼らの敵対者によって「それは自業自得だ」というキャンペーンが始められる。
マッシモ・イントロヴィニエ
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「鹿を指して馬となす」という中国のことわざがある。趙高は紀元前3世紀末に退位した秦の二世皇帝に仕えた丞相であった。彼は帝位を簒奪することを計画したが、宮中で彼を支持するのは誰かを見定める必要があった。そこで彼は皇帝に鹿を示して、それが馬であると言ったのである。皇帝がそれは鹿ではないかと言うと、彼は宮廷の臣下たちにそれが馬であると言わせようとした。多くの者は趙高を恐れてその通りだと言った。彼は鹿であると言った者たちを処刑し、その後に謀反を起こした。
「鹿を指して馬となす」のように、悪意をもって言葉の意味を逆転させることは今日、宗教的マイノリティを差別する際にしばしば行われる。彼らが犯罪の被害者となるとき、それは自業自得だと示唆されるのである。被害者は加害者と呼ばれ、加害者は被害者と呼ばれる。それはレイプ犯を擁護する悪徳弁護士の戦略を思い出させる。彼らは決まってレイプされた女性に対して、十分に控えめな服装をしていなかったからだと非難するのである。
2022年6月16日、韓国で一人の男が彼の前妻とその兄弟の妻を殺した。後者は深い傷を負っていた。彼の主たる動機は個人的なものであったかもしれないが、彼は自分が罪を犯したのは、その妻が新天地と呼ばれる新宗教運動の信者だったからだと主張した。彼は犯罪の24時間前に、異端的「カルト」であるとみなすグループと闘うことを専門とする組織「異端相談所」に相談した。同相談所が殺人を犯すように示唆したわけではないが、彼の新天地に対する憎悪を刺激したのである。犯罪の後、同相談所は記者会見を開き、殺人犯は実は被害者であり、責任は新天地にあると主張した。彼らが言うには、彼の妻が新天地に入信しさえしなかったら、この哀れな男は残りの人生を刑務所で過ごさなくても良かったのである。彼は終身刑になる可能性が高かった。

2019年1月3日、一人のティーンエイジャーがオーストラリアのシドニーにある自分の母親が所属するサイエントロジー教会の敷地内に入り、サイエントロジーの信者にナイフで致命傷を負わせた。裁判において、二人の専門家が彼は統合失調症であると宣告したため、後に彼は刑事責任がないと認定された。しかし本物のパラノイア患者にも実在する敵はいるのである。彼は母親と別の理由で喧嘩していたのだが、サイエントロジーを悪者として描くプロパガンダもまた、彼の弱い心を刺激したかもしれないのである。ここでもサイエントロジー反対派はメディアに対し、犠牲者のためには涙を流すこともなく、サイエントロジーは母と息子との間に敵意を作り出したと言われていることに関して、非難されるべきだと言ったのである。
新天地やサイエントロジーに対して人が何と思おうと、これらは被害者を加害者に逆転させたとんでもないケースである。そしてわれわれはいま、この歪んだ論理の中でも最も驚くべきケースを目にしている。安倍晋三の殺害である。5つの基本的な事実を考察してみよう。第一に、暗殺者の山上徹也は統一教会のメンバーではなく、過去においてもメンバーであったことはなかった。現在この団体は世界平和統一家庭連合と呼ばれている。
第二に、彼の母親は1998年に統一教会に入教し、いまもそこにいる。彼女は2002年に破産宣告しており、安倍を殺した犯人と彼女の義理の兄はどちらも彼女が教会に捧げた過度な献金を非難しているのは事実である。その義理の兄が苦情を申し立てたのち、二人の教会員が分割で献金の50%を返金した。
第三に、安倍晋三もまた統一教会のメンバーではなかった。彼は統一教会の指導者によって創設されたNGOであるUPFの2021年のイベントにビデオを送り、2022年のイベントにはメッセージを送った。同じことをドナルド・トランプも、元欧州委員会委員長のジョゼ・マヌエル・バローゾとロマーノ・プローディも、そしてその他あらゆる信条の数十人の政治家たちも行った。
第四に、彼の母の破産は、彼自身が言っているように、山上の統一教会に対する憎悪の原因となった。しかし、破産が起きたのは2002年であり、山上が安倍を殺したのは20年後の2022年である。山上の殺意の引き金を、それ以前ではなく2022年に引いたものは何だったのか。我々が知っている事実は、山上が日本で広まっている反統一教会キャンペーンをフォローしていたということだ。彼は教会に敵対する仲間とソーシャルメディアで交流していた。安倍を殺した前日に、山上は米本和広に手紙を書いている。米本は、過去における統一教会信者に対するディプログラミングまたは「棄教」を目的とした拉致の実行に反対していた点では称賛に値するが、彼は教会に対しては反対の立場だった。山上は反統一教会的な環境と交わり、教会に対するヘイトスピーチにさらされていたのである。それが彼の弱い心を変えさせた可能性がある。
第五に、安倍を殺す前に、山上は家庭連合の指導者である文夫人の暗殺を計画しており、彼はかつて家庭連合の教会として使われていたビルを撃つことによって、自分の武器をテストしたのである。

山上は教会を憎んでいた。そしてこの憎しみは反統一教会活動家のヘイトスピーチによってあおられた。自らの責任を隠すために、彼らは明らかに被害者である統一教会をあたかも加害者であるかのように非難した。
言葉をねじ曲げることは、悲惨な結果をもたらす。馬を指して鹿となした後に、趙高は束の間の成功を収めるが、最終的には秦帝国の滅亡をもたらし、彼自身殺害されている。被害者を加害者と呼び、加害者を被害者と呼ぶことは、同じように破壊的な社会的ポテンシャルを持っている。反統一教会の計略を進めるために安倍暗殺の事実を操作する者たちは、おそらく立ち止まってよく考えなければならないであろう。

Massimo Introvigne (born June 14, 1955 in Rome) is an Italian sociologist of religions. He is the founder and managing director of the Center for Studies on New Religions (CESNUR), an international network of scholars who study new religious movements. Introvigne is the author of some 70 books and more than 100 articles in the field of sociology of religion. He was the main author of the Enciclopedia delle religioni in Italia (Encyclopedia of Religions in Italy). He is a member of the editorial board for the Interdisciplinary Journal of Research on Religion and of the executive board of University of California Press’ Nova Religio. From January 5 to December 31, 2011, he has served as the “Representative on combating racism, xenophobia and discrimination, with a special focus on discrimination against Christians and members of other religions” of the Organization for Security and Co-operation in Europe (OSCE). From 2012 to 2015 he served as chairperson of the Observatory of Religious Liberty, instituted by the Italian Ministry of Foreign Affairs in order to monitor problems of religious liberty on a worldwide scale.


