法的根拠は存在しなかった。容疑の内容は非現実的で、政治的動機に基づいている。これは汚職事件ではない――粛清である。
マッシモ・イントロヴィニエ
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韓国はまたしても、「刑事司法を装った政治的粛清」という長く続いてきた物語に新たな一章を加えた。今回の主人公は、世界平和統一家庭連合(旧・統一教会)の指導者であり、信徒から「ホーリーマザーハン」と呼ばれる、82歳の韓鶴子総裁である。韓総裁の逮捕は単なる法的な誤りではない。これは反汚職を装った、宗教の自由に対する国家的な攻撃であり、全面的な「宗教ジェノサイド(religiocide)」である。
抗議は必要であるが、それだけでは不十分である。いま求められているのは事実を見極める明晰さだ。本誌『Bitter Winter』は、この不条理を次の三つの問いに沿って検証する。1. 韓鶴子総裁の拘束に法的根拠はあったのか。2. 韓総裁は具体的にどのような容疑をかけられているのか。3. これは単なる犯罪事件なのか。それとも政治的・宗教的粛清なのか。
1. 拘束の法的根拠
韓国でも多くの民主国家と同様に、起訴前の拘束が正当化されるのは、「海外逃亡の恐れ」または「証拠隠滅の恐れ」がある場合に限られる。では、この基準を現実に照らしてみよう。
海外逃亡の恐れ?
韓鶴子総裁は82歳で心臓手術からの回復途中にあり、すでに3月から出国禁止措置がとられている。空港に向かって疾走するという状況は、到底考えられない。
証拠隠滅の恐れ?
逮捕を認めたソウル中央地裁のチョン・ジェウク判事が強調したのはこの点である。しかし、韓総裁の自宅や教団事務所はすでに繰り返し家宅捜索を受けており、検察は紙切れ一枚から全てのハードディスク、データ1バイト(byte)に至るまで押収済みである。彼女に残されたものといえば、せいぜい記憶くらいだろう。
結論として、この逮捕状は全く根拠のないものだ。法的要件は満たされていない。
2. 容疑の内容
次に、容疑の内容である。特検は4つの容疑を挙げている。その他の2件――保守派の国民の力党への教団信者の入党や、同党幹部で逮捕された権性東(クォン・ソンドン)院内代表への資金提供――についても未だ捜査は続いているが、今回の拘束令状には含まれていない。
これらの追加容疑も懸念すべきである。なぜなら、宗教者を含むすべての市民が、自ら選択した政治家や政党を支持するという、憲法で保障された権利を侵害しかねないからである。韓総裁が家庭連合の信者11万人を国民の力に入党させたとする主張は、韓国における実際の会員数を上回っている。また韓国メディアが報じる「100万人超」という数字には、信者ではない賛同者やUPFの「平和大使」も含まれている。

ここでは、拘束令状に記載された四つの容疑に絞って取り上げたい。
容疑1:クォン議員を介した贈賄
検察は、韓総裁が元教団幹部(すでに起訴され家庭連合から追放されている)に指示し、権議員を通じて国民の力党と尹政権に1億ウォンを渡したと主張している。この金額は国際メディアで韓国ウォンのまま報じられることが多く、読者に強い印象を与えるかもしれない。しかし米ドルに換算すれば、わずか7万3千ドルにすぎない。韓国の政治家が安上がりだとしても、汚職がはびこり巨額の賄賂が飛び交うこの地域で、G20のメンバーである一国の与党と大統領をたった7万3千ドルで買収できると考えるのは、あまりにも非現実的だ。
しかも、その使途とされるのは通信社の買収やカンボジアでの事業利権だという。だが、いずれも実現していない。さらに検察は、その資金が尹大統領の就任式でのVIP席確保に充てられたとも主張している。しかし、トランプ前大統領をはじめ各国の首脳を招いて国際会議を主催してきた人物が、国内の式典の座席欲しさに重罪を犯すなど、笑い話にしかならない。
容疑2:大統領夫人への贈答品
4万2千ドル相当のダイヤモンドのネックレスと、1万4千ドル相当のシャネルのハンドバッグ2点が、占い師を介して尹大統領夫人に贈られたとされている。韓総裁は関与を否定し、それは幹部が独断で行ったことだと主張している。驚くことではないが、その幹部は自らの不正の責任をすべて彼女に押し付けようとしている。しかも、その金額は韓国で通常問題となる巨額の贈賄とは比べものにならないほどわずかである。高麗人参茶を付け加えたとしても、政治スキャンダルというよりは、せいぜい高級品の買い物程度である。
容疑3:横領
検察は、韓総裁が教団資金を、贈答品の購入を含め私的な活動に流用したと主張している。しかしこれは「自分の財布から盗んだ」のに等しい。家庭連合のような宗教運動(あるいはさらに大規模な宗教団体)では、個人の財産と組織の財産の境界はしばしば曖昧になる。献金者は韓総裁をメシア的存在として深く尊敬しており、教団への献金と韓総裁への献金を区別していないと考えるのが自然だろう。
容疑4:証拠隠滅
2022年、韓総裁は、大統領夫人にバッグや宝石を贈ったとされる同じ幹部に対し、自身のラスベガスでのギャンブルに関する証拠を隠すよう指示したとされている。ギャンブルの話は、統一教会の歴史を知らない人々にはもっともらしく聞こえるかもしれない。だが、その疑惑の始まりは実に50年ほど前にさかのぼる。
ギャンブルは韓国人にとって、国内(江原道旌善郡の江原ランドカジノを除く)でも海外でも違法とされている。とはいえ、10年以上前に米国で行われたギャンブルについて、なぜ韓総裁が2022年に韓国内で証拠隠滅を図ったとされるのか、その理由はいまだ不明である。そもそもこの話は、反カルト派の書籍やウェブサイトで半世紀にわたり繰り返し拡散されてきた。しかも、韓国の検察が韓総裁が隠そうとしたと主張する文書は、既に韓総裁や教団に対抗するライバル勢力によって公開され、法廷で利用されている。
文鮮明師自身も、1979年10月7日の広く知られた説教でこの問題に触れており、その記録は今も教会がオンラインで公開している。その中で文師は、ラスベガスのギャンブル界と関わろうとした意図をはっきりと述べ、たとえ賭博界のような相手にも救いのメッセージを伝えようとしたことを強調している。「宗教者が悪から逃げたら、一体誰が悪を洗い流す責任を負うのか?」
罪人と交わりつつ福音を伝えるという伝道の方法は、確かに誤解や疑念を招きやすい。実際、イエスも取税人や遊女と食事をしたことで非難されたように、このやり方を疑問視する人もいるだろう。
しかし、今回の韓国での事態の焦点はそこではない。重要なのは、韓総裁は違法行為までしてギャンブルの話を隠す必要は全くなかったという点だ。この話はすでに40年以上前から知られ、反対者たちによって繰り返し利用されてきた。では、なぜ韓総裁はすでに掘り起こされ、検証され、記録まで残っている話を今になって葬る必要があるのか。

3. 背景
これは韓総裁だけの問題ではない。尹前大統領や国民の力党を支持したとされる宗教指導者たちに対する大規模な粛清である。スイスの学者エイドリアン・ガッサーの最近の研究によれば、反共と同性愛の反対を主張した尹前大統領には、複数の宗教団体からなる連合が強力な支持を送っていたという。皮肉なことに、その支持者の一部は反カルト活動家だった。だが今や、彼らはかつて異端として非難した人々と同じ牢に入るかもしれない。
家庭連合と、もう一つの韓国を代表する新宗教運動である新天地も、主要な標的となった。新天地は、大統領選の予備選で尹氏を支援する目的で、数千人の信者を国民の力党に入党させたとして新たに非難を受けている。現在の与党である共に民主党の議員の中には、国民の力党が宗教団体や「カルト」のフロント組織として機能しているとし、解党を求める声すら出ている。
世界最大のペンテコステ派教会である汝矣島純福音教会の李永勲(イ・ヨンフン)牧師や、世界バプテスト連盟の元会長であり極東放送(Far East Broadcasting Company)の金章煥(キム・ジャンファン)牧師も捜索対象となり、それぞれの教会や事務所が家宅捜索を受けた。

彼らは、尹大統領を支持していた元海兵隊第1師団長のイム・ソングンにロビー活動を行ったとして非難されている。イムは、2023年の水害救助活動でチェ・スグン1等兵が死亡した件について、過失致死の罪に問われている。チェ1等兵は、適切な安全装備を与えられないまま任務に就かされたとされている。
釜山セゲロ教会のソン・ヒョンボ牧師は、信者を動員して国民の力党を支持させたとして、公職選挙法違反の疑いで逮捕された。
共通点は何か。彼らはいずれも尹氏を支持していた。そして今、全員が標的にされている。この弾圧はあまりにあからさまで、トランプ大統領も韓国における「教会への悪質な強制捜査」と非難した。そして彼の言うことは間違っていない。問題はハンドバッグやネックレスではない。狙いは、誤った候補を支持した宗教者の声を封じることにあるのだ。
韓国には、歴代大統領を起訴し投獄してきた伝統がある。しかし今回新しいのは、その「国技」に宗教的な要素が加わっていることだ。尹氏の台頭を支えたのは、福音派やペンテコステ派、さらには一部の新宗教運動といった保守的な宗教勢力の連合体だった。ところが今、左派政権はそのすべてを標的にしている。
2021年、汝矣島純福音教会の創設者の葬儀で、金牧師は当時検事総長だった尹氏の頭に手を置き、事実上、国民の力党の大統領候補として支持を示した。ところが今、その行為は家宅捜索と逮捕という形で返ってきている。
家庭連合が尹大統領のための一枚岩の政治マシンだったという作り話も取り下げるべきだ。事実はそうではない。確かにこの組織は、反共主義や伝統的な家族観といった点で国民の力党といくつかの保守的価値を共有していた。しかし、その支持は決して一枚岩でも、無条件でもなかった。地域の当教団指導者たちは多様な政治的立場を持ち、韓総裁の行事には歴史的に国民の力党だけでなく共に民主党の代表も招かれてきた。そこにあったのは党派性ではなく、むしろ包摂性だった。
しかしいまの風潮では、「ニュアンス」は罪とされる。それが限定的であれ偶発的であれ、国民の力党に対するわずかな過去の同情も、いまや反逆と見なされてしまう。特検のメッセージは明白である:「過去に間違った政党と握手を交わしたなら手錠をかける」。過去の関係を理由にした遡及的な連座責任が新たな司法基準となってしまった。

もしこれが韓総裁ひとりの問題だったら、懐疑的な人々も贈賄疑惑にこだわっただろう。しかし、この大規模な弾圧は真実を露わにした。これは政治的かつ宗教的な広範な粛清である。そして、有罪率95%を誇る韓国の検察のもとでは、生存そのものがかかっている。それは、健康上の理由から収監で命の危険にさらされている韓総裁だけでなく、宗教の自由や民主主義という、より広範な問題の明暗が懸かっている。
国際社会の抗議は不可欠だが、冷静で的を射たものでなければならない。韓総裁を拘束する法的根拠は存在せず、容疑は非現実的で政治的動機に基づいている。これは汚職事件ではなく粛清である。
世界は、迫害(persecution)を起訴(prosecution)と取り違えてはならない。今韓国の民主主義と宗教の自由そのものが裁かれている。そしてその判決は、国境を越えて広く響き渡ることになるだろう。

Massimo Introvigne (born June 14, 1955 in Rome) is an Italian sociologist of religions. He is the founder and managing director of the Center for Studies on New Religions (CESNUR), an international network of scholars who study new religious movements. Introvigne is the author of some 70 books and more than 100 articles in the field of sociology of religion. He was the main author of the Enciclopedia delle religioni in Italia (Encyclopedia of Religions in Italy). He is a member of the editorial board for the Interdisciplinary Journal of Research on Religion and of the executive board of University of California Press’ Nova Religio. From January 5 to December 31, 2011, he has served as the “Representative on combating racism, xenophobia and discrimination, with a special focus on discrimination against Christians and members of other religions” of the Organization for Security and Co-operation in Europe (OSCE). From 2012 to 2015 he served as chairperson of the Observatory of Religious Liberty, instituted by the Italian Ministry of Foreign Affairs in order to monitor problems of religious liberty on a worldwide scale.



