驚くべきことに、彼らは安倍氏暗殺後に導入された「カルト」に対する厳しい措置では不十分だと主張している。
マッシモ・イントロヴィニエ
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2025年2月25日、日本弁護士連合会(長年にわたり反カルトキャンペーンに関与してきた団体)は、全国統一教会被害対策弁護団、日本政治弁護士連合会と協力し、日本の国会で「カルト」に対する一連の措置を支持するイベントを開催した。
配布された資料には、以下の3つの提案が含まれていた。①カルトの「被害者」救済のための法制度を強化し、宗教法人が解散した場合、その資産が現在および将来の「被害者」に渡るようにする。②「意思決定の自由を侵害することを防止するための新たな法的枠組み」の策定。③「カルト」との闘いを担う「省庁横断的な組織の設立」。本記事では、3つ目の提案(以下、「本提案」または「提案書」)についてのみ取り上げる。
本提案では、2022年に発生した安倍晋三元首相の暗殺事件に言及している。この事件では、旧統一教会(現在は「世界平和統一家庭連合」と改称されたが、依然として旧名称で呼ばれることが多い)と安倍氏の関係を問題視した犯人が、教団への報復として彼を襲撃した。この事件を受けて、日本政府は旧統一教会を宗教法人として解散させるための訴訟を起こし、宗教団体への寄付や子どもの宗教教育に関する新たな法律や指針を制定した。
これらの措置は、国連の4人の特別報告者を含む国際的な専門家から、信教の自由を深刻に制限するとして広く批判された。しかし、本提案によれば、これでもまだ不十分だという。提案書では、より広範な「カルト問題」の存在を主張し、その対策のモデルとして「フランスの反カルト法」を挙げている。提案書の脚注では、2001年に制定された「反セクト法(アブ・ピカール法)」に言及している。なお、この提案は2023年に作成されたため、2024年に導入された反セクト法の改正(これにより法律はさらに厳しくなった)については考慮されていない。しかし、本提案にはすでに「カルト」対策の対象を宗教団体にとどまらず、「政治、経済、教育関連のセミナー、心理療法、医療、カウンセリング活動を行う組織」にまで拡大することが盛り込まれている。これは、フランスにおける「セクト(カルト)的逸脱(dérives sectaires)」の概念が最近拡張されている流れと一致している。
本提案は、「カルト」が「精神的依存」や「マインド・コントロール」(つまり「洗脳」)を生み出すとする、すでに否定された理論に基づいている。提案書では、「マインド・コントロール下で財産的被害を受けるだけではなく、職業キャリアを途絶させられたり、適切な医療を受ける機会を逸したり、団体によって決められた結婚を強いられたり、結婚生活においてDV等を受忍させられたりしている」と主張されている。
さらに、「マインド・コントロール」は、「カルト」で生まれ育った二世信者の人生において支配的な要因であるとされている。提案書によれば、「宗教二世は生まれながらにして、あるいは幼少期から信仰を強制され、精神面はもとより、場合によっては経済的・肉体的にも虐待を受ける等(過度な恐怖や罪意識の植え付け、友人や恋人を作るなど団体外部の人や社会との交流をさせない、布教活動等への強制的な従事、貧困、就学・就労機会のはく奪、体罰等の身体的暴力等)」と述べられている。
この提案は、特定の教義を弾圧するものでないため、信教の自由に反するものでなく、提案書で「被害者」と見なす人への 「被害」を防ぐためのものだと主張し、いつもの偽善文句を持ち出している。しかし、実際には、信者が外部の人々に教義を広めることや、自らの子どもに信仰を継承することさえも「被害」と見なしており、結局のところ、提案の本質は教義そのものを標的にしていることが明らかである。
提案書では、「カルト研究センター」の設立構想は1990年代からすでに提唱されていたが、「設置の実現には至らず、被害が再び顕在化したのである。」と指摘している。実際には、日本の反カルト団体は非常に活発であり、特に安倍氏暗殺事件以降、メディアの議論を主導してきたにもかかわらず、提案書では「日本にはこの問題に継続的・総合的に取り組む組織等が欠如している。」と主張している。また、提案書は、全国霊感商法対策弁護士連絡会や日本脱カルト協会などの民間の反カルト組織の存在を認めつつも、「これら民間団体は、その構成員の無償のボランティア的活動によって支えられているという実情があり、そのマンパワーは有限であって、永続性も担保されていない。」と嘆きながら、この問題を「民間団体のみに任せるのではなく、国として継続的に取り組む必要性が存することは明らかである。」と訴えている。
さらに提案書では、政府はこれまで消費者保護の観点から対策を講じてきたものの、「カルト被害は、前述のとおり、社会に対して様々な形で継続的に甚大な被害を及ぼし続けており、消費者被害にとどまるものではない。」と主張している。

提案書では、「国は、カルト被害に特化した注意喚起・予防のための広報も行うべきである。殊に若者に対する注意喚起・予防が肝要となるところ、カルト問題対策に取り組む大学は増加しているものの未だ十分ではない」とし、国においては、「義務教育その他の教育の機会、公共放送等を通じて、カルト被害を紹介し、若者を中心とした一般市民に対して、カルト被害に通じる勧誘からの抵抗力をつけるための施策等も検討されるべきである。」と主張している。しかし、「布教の自由」を含む信教の自由を制限することなく、これをどのように行うことができるのか、その点については明確に説明されていない。
また、提案書は「被害者への支援体制」を求めており、その対象には「カルト」を離脱した者と留まっている者の両方が含まれる。しかし、後者に対する「支援」の内容は曖昧な表現にとどまる。明記されてはいないが、実質的には脱会を促す「ディプログラミング」を合法化しようとしていると考えられる。
結論として、日本政府に対し、フランスのMIVILUDES(セクト的逸脱行為関係省庁警戒対策本部=フランスの反カルト政府機関)と似たような、省庁横断的な反カルト組織の設立を求めている。さらに、この機関を通じてカルト問題に取り組む民間団体への「財政支援」を行うことを提案している。しかし、皮肉なことに、フランスでは現在、反カルト・反過激派対策に充てられた税金の使途について不正疑惑や調査が相次いでおり、実際には存在しなかったイベントへの資金提供など、資金の流用が問題視されている状況である。

当然、日本のこの提案書の問題点は、フランスのMIVILUDESが直面してきた問題と同じであり、フランス当局に対する国際的批判を招いている点でも共通している。フランスでは、「secte(カルト)」の定義が曖昧である点に対して、「カルト」という用語の代わりに「dérives sectaires(セクト的逸脱)」という表現を使うことで、この問題を回避しようとしてきた。提案書によれば、フランスでは「その活動に参加する人の精神又は身体において強度の依存状態を作り出し、維持し、利用することを目的又は効果とする活動を行う団体」が「カルト」と見なされるとされている。しかし、フランスの法律自体の解釈が曖昧であることに加え、宗教団体が「被害者」を物理的に監禁するケースは稀である(むしろ、「脱カルト」を目的とした強制的な「ディプログラミング」においてはよく見られる)。また、「心理的依存」という概念も、「カルト」の定義と同様に曖昧であり、その根拠となる洗脳理論は、20世紀以来、学術的にも司法的にも非科学的なものとして退けられている。
結局のところ、この議論は循環論法に陥る。ある団体が「洗脳」を行っていることが分かるのは、それが「カルト」だからである。そして、その団体が「カルト」であることが分かるのは、「洗脳」を行っているからである、という様に、「カルト」とラベル付けされた団体が生み出す「心理的依存」と、主流の宗教、心理学者、政治団体、さらには反カルト団体が生み出す「心理的依存」との間には明確な線引きは存在しない。さらに本提案では、「カルト」の親から宗教2世へ「心理的依存」を植え付けられるとされているが、実際には、どのような家庭であれ、宗教的信念の有無にかかわらず、親が子どもに対して何らかの心理的依存を生じさせるのは自然なことであり、夫婦間においても同様の現象が見られる。
日本で提案されている制度は、すでにフランスで機能している典型的な反カルト論理に基づいている。それは、「心理的依存」を生じさせ、「洗脳」を行う団体を「カルト」とみなすが、その「カルト」とされる団体は、民間の反カルト団体が独自の文化的・政治的アジェンダに基づいて指定する、というものだ。提案書は、日本政府に対し、こうした反カルト団体の理論やブラックリストを無条件に受け入れるよう求め、国家主導のプロパガンダを通じてそれを広め、差別を助長し、さらに反カルト運動を日本の税金で支援するよう求めているのである。

Massimo Introvigne (born June 14, 1955 in Rome) is an Italian sociologist of religions. He is the founder and managing director of the Center for Studies on New Religions (CESNUR), an international network of scholars who study new religious movements. Introvigne is the author of some 70 books and more than 100 articles in the field of sociology of religion. He was the main author of the Enciclopedia delle religioni in Italia (Encyclopedia of Religions in Italy). He is a member of the editorial board for the Interdisciplinary Journal of Research on Religion and of the executive board of University of California Press’ Nova Religio. From January 5 to December 31, 2011, he has served as the “Representative on combating racism, xenophobia and discrimination, with a special focus on discrimination against Christians and members of other religions” of the Organization for Security and Co-operation in Europe (OSCE). From 2012 to 2015 he served as chairperson of the Observatory of Religious Liberty, instituted by the Italian Ministry of Foreign Affairs in order to monitor problems of religious liberty on a worldwide scale.


