ヘイトスピーチと暴力の急増を引き起こした政府文書の作成に,民間の反カルト団体が重要な役割を担っていたことが,証拠により明らかになった。
マッシモ・イントロヴィーニュ
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2023年6月,70代のエホバの証人の女性が穏やかに伝道をしていたところ,57歳の男性に暴行された。男性は女性の腹部を蹴り上げ,コンクリートの階段から突き落とした。女性は体のあちこちにけがをし,右腕を骨折した。回復に長い時間がかかった。また2O24年2月には,エホバの証人の女性2人が集合住宅を訪れていたところ,30代の男性が暴言を吐いた。女性たちが帰ろうとすると,男性は「逃げんな。待て!」と言って,片方の女性の腹を蹴った。女性は階段から転げ落ちた。すると男性は階段を下り,女性の髪をつかんで蹴り続けた。
これらの事件は,エホバの証人が日常的に迫害されているロシアなどの非民主主義国家で起きたのではない。人権と信教の自由が尊重されていると私たちが考えていた民主主義国家,日本で起きたのである。
この2つの事件だけではない。2023年12月21日には東京都北区で,エホバの証人の女性2人が伝道中に暴力を受けた。2024年2月9日と14日には神戸市兵庫区と北区のエホバの証人の集会所に,エホバの証人の大量殺害を予告する脅迫状が投函された。さらに2023年2月末から11月末にかけて,62件のヘイトスピーチがあったとエホバの証人の日本支部は報告している。

日本でいったい何が起きているのか。エホバの証人などの少数派宗教への反対は20世紀から顕在化している。日本にも「反カルト」団体が存在し,ヨーロッパの反カルト団体と定期的に連絡を取り合っている。しかし,現在の差別と暴力の波は,2O22年7月8日に奈良で起きた安倍晋三元首相の銃撃事件から始まった。安倍元首相は信者ではなかったが,旧統一教会(現在は世界平和統一家庭連合と呼ばれている)に関連する団体の活動を支援していた。銃撃事件を起こした山上徹也被告は,こうした支援を行っていた安倍元首相を罰したかったと述べた。山上被告は,2002年に母親が自己破産して以来,旧統一教会を憎んでいたと供述している。母親は旧統一教会に過剰な献金をしたために自己破産に陥ったとされるが,現在もその信者である。
日本のメディアは,母親の自己破産から20年も経った後に山上被告に犯行を決意させたと思われる反カルト運動や,犯行自体を非難するのではなく,旧統一教会に対する“聖戦”を開始した。それはエホバの証人を含む,「カルト」の汚名を着せられた他のグループにもすぐに及んだ。それらのグループは明らかに,安倍元首相の殺害とは全く無関係である。組織化された日本の反カルト運動はこの機会に乗じて,「カルト」に対する法律や規制を日本で成立させるという目的を達成しようとした。そうした人々の意見はメディアを席巻し,政府に強い影響を与えた。
その結果,政府は旧統一教会である世界平和統一家庭連合の解散命令を出すよう求める裁判を起こしただけでなく,献金に関する法律やいわゆる「宗教的児童虐待」に関する規制が設けられた。後者の事例に注意を向けることを目的としたQ&Aガイドラインが,2022年12月23日に厚生労働大臣によって発表された。『Bitter Winter』が報じたように,このガイドラインは保守的な宗教による教育的行為全般を対象としており,重大な罪を犯して悔い改めない人は地獄に落ちると子どもに教えることから,親が不道徳と見なすアニメを見たり漫画を読んだりすることを禁止すること,未成年の娘に中絶をしないよう助言することまで,幅広い内容となっている。名指しはしていないものの,特にエホバの証人をターゲットにした項目もある。例えば,誕生日などの祝祭を祝わないことや輸血を拒否することなどが挙げられているが,これらはエホバの証人の特徴であり,反カルト運動の標的にされた他のグループには見られないものである。さらに2023年11月,2つの反カルト団体はそれぞれの報告書の中で,エホバの証人がQ&Aガイドラインに違反していると非難した。

反カルト団体の報告書とQ&Aガイドラインの影響が相まって,2023年の日本におけるエホバの証人に対するヘイトスピーチと暴力事件は,2022年と比較して638%増加した。これは日本国民の人権と信教の自由にとって危機的な状況だ。日本には21万4000人以上のエホバの証人がおり,さらに集会には31万人以上の出席者がいるからだ。その全ての人たちは,今回のヘイトスピーチやヘイトクライムの急増により,直接的または間接的に影響を受けている。
エホバの証人はこのたび,2O24年3月に日本政府に提出した「日本政府への提出書」を公にした。その提出書には,複数の学者(うち1名は署名も付している)による意見書も収められている。またこの提出書では,重大で極めて憂慮すべき事実も明らかになった。エホバの証人は,こども家庭庁(CFA)にQ&Aガイドラインの作成に関する情報開示を請求したが,証拠から明らかになったのは,ガイドラインを作成するよう積極的に働きかけたのが民間の反カルト団体だったということだ。それらの団体は,ガイドラインの内容の作成過程にも関わっていた。
2022年10月12日,エホバの証人を痛烈に批判することで知られる日本脱カルト協会(JSCPR)代表理事の西田公昭氏が,「カルト的集団」による「宗教2世」に対する「児童虐待の新たな類型」を認識するよう,政府に要請書を提出した。2022年10月27日,別の反カルト団体の代表者たちが,JSCPRと同様の要請書を各政党に提出した。2022年10月28日,西田氏とその支援者たちが記者会見を開き,政府への要請書の提出を発表した。同日,彼らは厚生労働省,文部科学省,外務省の代表者と面会した。2022年10月31日,加藤勝信厚生労働大臣は同省に対し,少数派宗教による「児童虐待」に関するQ&Aガイドラインを作成するよう指示した。加藤大臣は翌日の記者会見でこの指示を出したことを公にした。2022年12月5日,厚生労働省はQ&Aガイドラインを作成するため,西田氏や他の反カルト主義者たちと1回目の非公開の会合を開き,その後何回かにわたって会合した。2022年12月20日には最後の非公開の会合が行われ,12月23日にQ&Aガイドラインの最終案が承認された。

このように,厚生労働省と日本政府は,反カルト団体の「世俗的権力」として機能し,少数派宗教を標的としたガイドラインを作成する際に,反カルト団体の指南を受けたと見られる。
反カルト主義者たちが政府に提供した情報は,ほとんどが虚偽であった。2024年1月,独立調査チームが,日本のエホバの証人に関する過去最大の定量的研究を実施した。5人の国際的な学者がアドバイザーを務め,調査計画と調査結果を検討した。反カルト主義者たちは,エホバの証人が組織的に子どもたちの高等教育機関への進学を妨げていると政府に述べていたが,この調査によって,日本のエホバの証人の平均的な教育レベルは,一般の人々よりも高いことが証明された。調査結果によると,こう報告されている。「エホバの証人のサンプル集団(18歳から110歳)では,次のようになっている。(1)95,1%が義務教育以上の学校教育を受けているのに対し,一般集団は68.9%,(2)58.4%が高校を卒業しているのに対し,一般集団は35%,(3)36.7%が中等教育より後の学校を卒業しているのに対し,一般集団は33%である」。他の全ての指標は,日本のエホバの証人の家庭の子どもの教育や子どもの福祉への配慮が,平均以上であることを裏付けている。エホバの証人は自分たちのコミュニティの中で子どもが性的虐待を受けた事例を政府当局に報告しない,という主張も間違いである。

同じ調査によると,日本のエホバの証人の約95%が,自分たちのコミュニティを誤り伝えていると感じる報道を目にしたことがあった。また,7193人中500人以上の回答者が侮辱の被害に遭い,63人が雇ってもらえず,54人が脅しや攻撃を受けたと報告されている。
メディアを通してフェイクニュースを流し,政府を扇動して信教の自由に明らかに反する規制を制定させた反カルト団体は,平和的なコミュニティに対するヘイトクライムが増加した主な原因といえる。しかし,日本政府も潔白ではない。政治的な理由から,また世間の声やメディアに駆り立てられて,エホバの証人に関する反カルト主義者たちの主張を真に受け,そうした主張が誤りであることを証明した国内外の専門家の学術的知見を無視したのである。

Massimo Introvigne (born June 14, 1955 in Rome) is an Italian sociologist of religions. He is the founder and managing director of the Center for Studies on New Religions (CESNUR), an international network of scholars who study new religious movements. Introvigne is the author of some 70 books and more than 100 articles in the field of sociology of religion. He was the main author of the Enciclopedia delle religioni in Italia (Encyclopedia of Religions in Italy). He is a member of the editorial board for the Interdisciplinary Journal of Research on Religion and of the executive board of University of California Press’ Nova Religio. From January 5 to December 31, 2011, he has served as the “Representative on combating racism, xenophobia and discrimination, with a special focus on discrimination against Christians and members of other religions” of the Organization for Security and Co-operation in Europe (OSCE). From 2012 to 2015 he served as chairperson of the Observatory of Religious Liberty, instituted by the Italian Ministry of Foreign Affairs in order to monitor problems of religious liberty on a worldwide scale.


