裁判所は、安倍晋三氏がビデオメッセージの報酬として5000万円を密かに受け取ったと彼が主張した際に、証拠がないことを認識していた。にもかかわらず、それは名誉毀損には当たらないと宣言した。
マッシモ・イントロヴィニエ
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受賞歴のある日本人ジャーナリストの福田ますみ氏が2023年に報じた信頼できる意見によると、日本では「民事訴訟では『カルトだと負け』という裁判所の枠組みみたいなものがある」「他の事件では認められないような請求も、相手がカルト宗教だと安易に認められてしまう」という。これは福田ますみ氏の発言ではない。彼女は、反カルト団体である「全国霊感商法対策弁護士連絡会」のメンバーであった伊藤芳朗弁護士の言葉を引用したのだ。
現在の日本の風潮では、統一教会(現在は世界平和統一家庭連合と呼ばれているが、依然として古い名前で呼ばれることが多い)とその関連組織に関しては、この暗黙のルールがほぼ明文化されたものになってしまっている。
2025年5月14日、東京地方裁判所(3月25日に統一教会の解散を第一審で宣告した裁判所と同じ)は、一見単純な事件について判決を下した。教会の激しい反対者である反カルトジャーナリストの鈴木エイト氏は、2022年に暗殺された安倍晋三元首相が、統一教会と関係のあるNGOである天宙平和連合(UPF)のイベントにビデオメッセージを送った見返りに、5000万円(約34万3000米ドル)を受け取ったと繰り返し主張していた。安倍氏はこの支払いを納税申告書に記入していなかったため、この政治家とUPFは脱税の共犯者であり、日本の政治資金規正法にも違反しているという疑惑が浮上した。
鈴木氏には、これが事実であるという証拠はなかった。彼は、ドナルド・トランプ大統領が、同様のビデオメッセージのためにUPFから受け取った金銭を米国政府倫理局に報告していたことを知っていた。彼は、安倍氏にはトランプ大統領が受け取った金額の半額が支払われたに違いないと推論した。ちなみに、トランプ大統領がこれらの支払いを収入の一部として正式に報告していたという事実は、それらに違法性や秘密性はなかったことを意味する。
鈴木氏の推論は証拠にはならない。安倍氏がUPFにビデオを送った理由は様々考えられる。例えば、イデオロギー的な共感や、選挙で自民党内の彼の派閥が得た支援への感謝などであり、必ずしも金銭のやり取りを伴うわけではない。要するに、鈴木氏は証明できない主張をしたのだ。さらに彼は、安倍氏に支払われたとされる金銭は統一教会の「被害者」からのものだったと主張し、事態をさらに悪化させた。もちろん、鈴木氏にはこれを証明する証拠もなかった。
鈴木氏の最初の抗弁は、原告であるUPFジャパンは「総会および財務報告の期限に不備があったため」当事者能力を有していないというものだった。この主張は棄却され、裁判所はUPFジャパンを民事訴訟法第29条にいう法人でない社団に当たると認定した。
裁判所は、UPFジャパンを「国際NGOであるUPFの日本支部である」と定義した。しかし、矛盾したことに、鈴木氏の発言には証拠はないものの、それらは統一教会または(国際的な組織としての)UPFのいずれかに言及しているのであり、UPFジャパンの名誉を傷つけるものではないと裁判所は判断したのである。

裁判所は、UPFジャパンが安倍氏のビデオメッセージ配信を手配したと鈴木氏が主張しているソーシャルメディア投稿、記事、そして鈴木氏が執筆した書籍の一部を認めた。これらの証拠を無視するために、裁判所は鈴木氏の複数の発言を一括して検討することはできず、個別に分離して検討する必要があると言わざるを得なかった。5000万円が支払われたという発言は、ビデオメッセージをUPFジャパンと結び付ける発言とは別個に行われた。裁判所は、鈴木氏はUPFジャパンが安倍氏に秘密裏に支払いを行ったとは非難していないと結論付けた。彼は統一教会または国際的なUPFを非難したのであり、これらはUPFジャパンとは異なる組織だというのである。
裁判所が主張した二つ目の論拠は、鈴木氏が、当該支払いが脱税、贈賄、あるいは政治資金規正法違反に該当すると明確に述べていないというものである。したがって、当該発言は必ずしも名誉毀損に当たるものではないと裁判所は述べている。
この判決は、日本の裁判所ではなんであろうと「統一教会と関係があれば負ける」という原則の悪質な例である。裁判所は、鈴木氏が自らの主張を証明できたとは述べていない。彼にはできなかったのだ。裁判所は、ジャーナリストの鈴木氏が安倍氏への(架空の)支払いが違法であると明確に述べておらず、たとえそう述べていたとしても、UPFジャパンではなく、統一教会または国際的な組織としてのUPFを中傷しているのだと論じたのである。
裁判所は鈴木氏を救済するために、さまざまな言葉遊びを駆使した。しかしそれも、鈴木氏の複数の発言を全体として論理的に検討していれば成功しなかっただろう。なぜなら、いくつかの供述にはUPFジャパンへの言及が明確にあり、支払いがなされたという時点での同組織の法的代表者の名前まで挙げられていたからだ。裁判所は、鈴木氏の発言を人為的に分離することによってのみ、彼がUPFジャパンの名誉を棄損していないと結論付けることができたのである。

言葉遊びを払拭してしまえば、事実は明白だ。鈴木氏は統一教会と国際的な組織であるUPFに加え、UPFジャパンをも中傷しようとしていた。彼は自身の出版物において、これらの様々な組織を区別することなく扱っている。彼にとって、これらはすべて、罪のない「被害者」を食い物にする邪悪な「カルト」の一部なのだ。
意見表明は表現の自由によって保護されているが、証拠もなしに具体的な違法行為を主張することは、名誉毀損に当たる。鈴木氏は、「UPF」と「統一教会」が安倍首相に5000万円を支払ったと述べている。彼の発言や文章の全体的な文脈から、彼はUPFジャパンを安倍首相のビデオ撮影を手配した団体と特定していたことが分かる。支払いは記録に残されていなかったため、秘密裏に違法に行われた可能性がある。つまり鈴木氏はUPFジャパンを、犯してもいない犯罪で非難したのである。
「通常の」裁判所であれば、鈴木氏による名誉毀損を認定したであろう。しかし、「通常の」判断をすれば、日本の裁判所は「統一教会と関係があれば負ける」という暗黙の、そしておそらくいまや明文化されたルールに違反することになってしまう。これは法律の問題ではなく、政治の問題であり、日本における統一教会およびその関連組織を壊滅させるためのキャンペーンの一貫なのである。

Massimo Introvigne (born June 14, 1955 in Rome) is an Italian sociologist of religions. He is the founder and managing director of the Center for Studies on New Religions (CESNUR), an international network of scholars who study new religious movements. Introvigne is the author of some 70 books and more than 100 articles in the field of sociology of religion. He was the main author of the Enciclopedia delle religioni in Italia (Encyclopedia of Religions in Italy). He is a member of the editorial board for the Interdisciplinary Journal of Research on Religion and of the executive board of University of California Press’ Nova Religio. From January 5 to December 31, 2011, he has served as the “Representative on combating racism, xenophobia and discrimination, with a special focus on discrimination against Christians and members of other religions” of the Organization for Security and Co-operation in Europe (OSCE). From 2012 to 2015 he served as chairperson of the Observatory of Religious Liberty, instituted by the Italian Ministry of Foreign Affairs in order to monitor problems of religious liberty on a worldwide scale.


