BITTER WINTER

後藤氏vs鈴木氏 控訴審判決をめぐる中山達樹弁護士との対談

マッシモ・イントロヴィニェ

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Attorney Tatsuki Nakayama.
弁護士中山達樹

東京の蒸し暑い午後、長い法廷闘争の重みを声に帯びた中山達樹弁護士は、Zoomを介して「Bitter Winter」と語った。中山弁護士は、反カルトジャーナリストの鈴木エイト氏に対する名誉毀損訴訟事件で、家庭連合(旧統一教会)の信者の一人である後藤徹氏を代理する弁護士である。後藤氏が今年1月に一審で少額の損害賠償を得る勝利を収めたこの事件は、8月に東京高裁がその下級審判決を覆すという劇的な展開となった。中山弁護士は、冷静さを保ちつつ、言葉の端々に懸念をにじませて以下のように語った。

Q: 中山弁護士、まずは基本的なことから伺います。この事件の本質は何でしょうか。

A: 後藤徹氏の正義の問題です。後藤氏は、実兄ら家族により、脱会屋・宮村峻の指導のもと拉致され、12年半もの間監禁されました。これは誇張ではなく、記録として残っている事実です。後藤氏は、加害者を訴えて、2015年に最高裁判決を勝ち取りました。その画期的な判決は、日本における50年間のディプログラミング(拉致監禁・強制改宗)に終止符を打ったのです。

Q: そして、鈴木エイト氏がやってきたんですね。

A: はい。鈴木氏は、2022年の安倍元首相暗殺事件以降、反カルト攻撃を広めて有名になりました。鈴木氏は、後藤氏を公に「引きこもり」呼ばわりしました。これは自主的に社会的に孤立することを意味する言葉です。これは事実無根であり、名誉毀損です。後藤氏は自主的に孤立を選んだのではなく、強制的に監禁されたのです。東京地裁は、鈴木氏に対して11万円の損害賠償を命じました。

Q: しかし、東京高裁は8月にその判決を覆したのですね。

A: そうです。東京高裁は、2015年に終わった後藤事件で、信用性の低いとされていた監禁加害者らの証言を採用しました。かつて加害者は、施錠されていないことがあったと主張し、後藤氏が自由に外出できた可能性があると示唆しました。この信用性の低い証言に基づき、今回、東京高裁は、後藤氏が自発的に引きこもっていたと信ずるに足る合理的な根拠があると判断しました。

Q: これは、最高裁判所の判断と矛盾するように思われます。

A: 矛盾します。今回の東京高裁は、2015年に終わった後藤事件とは当事者が異なるため、かつての事実認定に拘束されないと述べました。そして、監禁の違法性を認めつつ、同時に後藤氏が自発的に閉じこもっていたかのように示唆しました。これは矛盾です。監禁が違法なら、後藤氏は意に沿わず隔離されたということです。後藤氏が隔離されていなければ、違法な監禁はなかったということです。この判決は、論理的な誤りを犯しています。

12年半の監禁後の後藤徹氏
12年半の監禁後の後藤徹氏

Q: 鈴木氏の弁護団から提出された法学者・山田健太教授の意見書を読みました。山田教授は、ジャーナリストは判決を自由に批判できなければならないと主張しています。私はその原則に賛成です。しかし、この事件は、判決を批判することが問題なのではなく、個人の名誉毀損の問題ですよね。

A: その通りです。判決を批判することが許されるのは当然です。問題は、鈴木氏の発言が、後藤氏の名誉を毀損したかどうかです。監禁被害者を「引きこもり」と呼ぶことは、社会的地位を下げる行為です。今回の東京高裁もそれを認めています。しかし、この東京高裁は、新たな証拠ではなく、以前却下された証言を根拠に、鈴木氏の「引きこもり」の主張を認めました。

Q: そのような認定がされると、法的に不安定になりませんか。

A: ご懸念の通りです。後藤事件の訴訟は、4年半にわたり地裁・高裁・最高裁の法廷で争われ、2015年に判決が確定しました。それにもかかわらず、そこでかつて却下された主張を新たな証拠なしに真実であると認めることは、恣意的な証言のつまみ食いです。これは法制度の信頼を損ないます。例えば、ある女性が同意のない性行為をされたとしてレイプ事件の民事訴訟で勝訴した場合を想像してみてください。数十年も後になって、別の裁判で、そのレイプ勝訴事件と矛盾する男性の主張が認められ、同意したんだろうと彼女の不貞を嘲笑する —これが、今直面している法的な不安定さです。

Q: 判決を「不吉だ」と表現しましたがなぜですか。

A: なぜなら、今回の判決は、家庭連合に有利な判決を下したくないという裁判所の消極的な姿勢を示しているからです。現在、東京高裁には、家庭連合に対する解散命令請求が係属しています。この判決が嫌な前例にならないかと危惧しています。

現在の後藤徹氏
現在の後藤徹氏

Q: 後藤氏は上告しますか。

A: はい。後藤氏は、東京高裁が判例を無視し、事実認定の経験則にも違反したと主張して最高裁判所に上訴します。こういう経験則は、一貫性と公平性を維持するために不可欠です。上告の結果が出るまでには1年ほどかかる見込みですが、私たちは引き続き闘い続けます。真実が雑音に紛れてしまわないことが大事です。社会的な偏見が微妙な法的判断を左右しやすい日本において、後藤徹氏の名誉毀損訴訟は、法廷ドラマではなく、イデオロギーの圧力に法正義が耐えられるかどうかの試練です。