定義も境界もないこの言葉を、ほとんどの学者は放棄した。それは「他者」を非難するための蔑称としてのみ使われている。しかし、日本では今でも使われている。
マルコ・レスピンティ
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※本論文は、「日本の信教の自由と民主主義の危機」と題し、国際宗教自由連合(ICRF)日本委員会が2024年12月に企画・主催した会議において、さまざまなバージョンで発表された。この会議では、著者が日本で講演ツアーを行い、6日に広島文化交流会館、8日にビジョンセンター東京京橋、9日に名古屋市のNiterra日本特殊陶業市民会館、10日に福岡のアクロス福岡で講演した。

統一教会は、1954年に文鮮明師(문선명, 1920-2012)によって韓国で創設された新宗教運動です。日本をはじめ、多くの国で大きな成功を収めています。日本では、オウム真理教と呼ばれる別の宗教団体が、1995年に東京の地下鉄でサリンガスを使った致命的なテロ攻撃をはじめ、いくつかの犯罪を起こして以来、新宗教運動、そして時には宗教全般が問題視されるようになりました。
オウム真理教によるこれらの犯罪行為は、「カルト的」「狂信的」と呼ばれる信仰に対する民衆の敵対感情を引き起こしました。しかしそれは悪意や無知に基づくもので、ほとんどの場合、それらのグループはまったく平和的であったとしても、しばしば暴力と結び付けられました。これは新しくて、無名で、小さなグループやスピリチュアルな団体に当てはまります。私がいま言ったこれら三つの要素が必ずしも同時に成り立つとは限りません。小さくても有名な「新宗教」は存在しますし、その逆もあり得るからです。
新しくて、有名でない、または小規模な宗教団体も、「カルト」と呼ばれることがよくあります。いわゆる反カルト運動の活動家は、自分たちの運動は「カルト」のみに反対していると主張します。しかし、実際には、これは常に真実であるとは限りません。宗教全般に対する反感は、「カルト」対策から始まるかもしれませんが、すぐに一般化されます。これは、「カルト」自体が問題のある概念であるためです。これは科学的な言葉ではなく、ほとんどの学者は使用を控えています。その意味と境界が明確でないため、この言葉は物事を単純化するよりもむしろ複雑化します。実際のところ、「カルト」と「真っ当な」宗教を区別するものは何でしょうか。誰が、どのような基準に基づいて、線引きするのでしょうか。一連の法令や世俗国家が、その精神性をほとんど理解していないグループの複雑な神学や、典礼や、歴史に介入できるのでしょうか。
「カルト」という言葉は、実際には常に侮蔑的な意味を持ち、個人、組織、機関、または国家が嫌うライバルや人々を指すために使われます。それは常に「他者」を指し、何の証拠もなく人々やグループに向けられます。要するに、「カルト」という言葉の意味は常に、ある宗教的またはスピリチュアルなグループと敵対関係にある個人、組織、機関、または国家が決定するのです。
また、「カルト」は「被害者」を支配するために「洗脳」を行っていると非難されていますが、この概念は、西洋の新宗教運動を研究する大多数の学者や、米国やその他の国の裁判所によって疑似科学であるとして広く否定されています。しかし、これは日本ではあまり知られていないようで、メディアで広まっている「反カルト」の言説に対して学者コミュニティの大部分が反対していることもあまり知られていません。実際、日本ではそのような反応は見られず、ほとんどの宗教学者は、オウム真理教を無邪気に支持していた一部の学者に起こったように、「カルト」と関係付けられることでキャリアが危険にさらされることを恐れています。
また、日本の反カルト運動がまったく何もない所から生まれたわけではないことにも留意しなければなりません。その歴史的背景をここで詳しく説明する時間はありませんが、フランス革命以降、フランス政府は宗教全般、特に制御が難しいとみなす宗教的マイノリティーに対して疑念を抱いてきました。

フランスには、「カルト」と闘い、さらには反カルト・イデオロギーを国際的に推進することを任務とする政府機関があるのです。「The Journal of CESNUR」は、これらの機関と「カルト」に敵対する日本の弁護士たちが、1990年代から会合を始めたことを記録しています。また、日本のジャーナリストである福田ますみ氏の優れた論考の英訳を掲載することにより、これらの弁護士たちの動機が「カルト」を訴えて簡単に金儲けしようという貪欲さにだけあったわけではないという観点も提示しています。彼らのほとんどは社会主義者や共産主義者であり、反共運動で成功を収めていた日本の特定の新宗教、すなわち当時統一教会と呼ばれていた家庭連合を標的にしたかったのです。
安倍元首相の暗殺事件に話を戻しましょう。現場で直ちに逮捕された犯人の山上は、すぐに地元警察に殺人を公然と自白しました。安倍元首相の死亡が公式に宣告されると、山上は正式に殺人罪で告発されました。その後数か月の間に、彼に対する告発はさらに増え、2023年3月30日現在から今日まで、自白した暗殺者に対する告発は合計4件に達しました。同様の過去の事件では終身刑に減刑されたケースもありますが、山上は死刑になる可能性もあります。
ここで注目すべき点が一つあります。殺人犯の山上は、安倍首相の政治的志向、思想、政党に敵対する気持ちはなく、彼の暗殺の理由は直接的にも間接的にも、政治とは関係がないと明言しています。山上は、自分が安倍氏の政治的見解や政策に共感するかどうかは別として、この国の有力な指導者である無実の男性を殺害したのは、統一教会・家庭連合に対する深い恨みと憎悪からであると、明白に述べました。
実際、山上は以前、文鮮明師の未亡人で統一教会の共同創設者である韓鶴子(한학자)総裁を殺そうとしていたが、彼女に近づくことが困難だったため断念したと供述しました。そこで、彼は統一教会に賛同していることで知られる政治家の安倍氏に標的を変えました。山上は統一教会の信者ではありませんでしたが、彼の母親は信者であると言われています。山上は、教会への過度な献金のために母親が破産し、それが彼と兄弟を飢えに追い込み、弟を自殺に追い込み、彼自身も自殺を試みたと主張しました。
殺人事件から2年以上が経ちましたが、事件には多くの謎が残っています。しかしここで重要なのは、結果として、暗殺者の裁判は未だに始まっておらず、判決も下されていない一方で、家庭連合は被害者ではなく加害者であるかのように、非難にさらされているということです。犯罪者ではなく、家庭連合が罰せられているのです。安倍首相は高い代償を払ったし、家庭連合も高い代償を払っていますが、問題の元凶はあくまでも暗殺者なのです。彼以外の誰も、この凶悪犯罪の責任を負わされるべきではありません。しかし、既に申し上げたように、それとは逆のことが起きているのです。
全体的に論理がゆがんでおり、それは4つの要点にまとめることができます。
まず、暗殺者は統一教会や家庭連合の会員ではなかったし、これまでもそうであったことはないということをもう一度繰り返しておきます。
第二に、彼の母親は2002年に破産宣告をしましたが、彼女の義理の兄が苦情を申し立てた結果、教会員2人が献金の半額を分割で返還しました。
第三に、多くの統一教会・家庭連合の信者が安倍氏を支持し、選挙で投票したことは疑いありませんが、安倍氏自身は統一教会・家庭連合の会員ではありませんでした。安倍氏は統一教会の創設者が創設したNGOであるUPFのイベントに、2021年にオンラインで参加し、2022年にはメッセージを送りました。しかし、アメリカの大統領を務めたドナルド・トランプ氏、欧州委員会の元委員長であるジョゼ・マヌエル・バローゾ氏とロマーノ・プロディ氏、その他さまざまな信条の政治家数十名が同じことをしたのです。私自身も似たようなイベントに出席し、さまざまな立場の政治家のスピーチやメッセージを聞いたことがあります。
第四に、なぜ暗殺者は20年前の2002年に母親が破産したにもかかわらず、2022年に安倍氏を殺害したのでしょうか? 私はもちろんこの犯罪について反カルト運動を非難するつもりはありませんが、「The Journal of CESNUR」は、山上が暗殺前の数年間に反カルトのインターネットフォーラムに参加し始め、それが彼の弱い心を刺激した可能性があることも記述しています。

こうした要素を考えると、少なくとも状況は不透明だと言えるでしょう。
これらの4つの点から明らかになることは、一部の西洋の学者が示唆しているように、安倍氏を殺害した山上は、歴史上最も成功した政治的暗殺者の一人であるということです。山上が明言しているテロの目的は、家庭連合を問題にして、できれば壊滅させたいということでした。多くの場合、政治的暗殺は裏目に出て、犯罪者はその目的を達成できませんが、現時点では山上は驚くほど成功しています。もちろん、彼が成功しているのは、いくつかの嘘で犯罪を曖昧にしているからです。
もちろん私は山上氏の検察官ではありませんし、そうなるつもりもありません。この名誉ある国の法廷に何かを期待しているわけでもありません。私はただ観察者、記者として自分の仕事をしようとしているだけです。私が「嘘」という言葉を使ったのは、山上が主張する家庭連合の罪という話は明らかに虚偽であり、その事実はさまざまな方法で証明できるからです。今日の私たちの議論のため、そして何よりも真実のために、私はいま、この暗殺者が誤った結論に至った心理的メカニズムについて少し考えたいと思います。
前述のように、暗殺者が犯罪を犯した理由は、統一教会の教えが、彼が非難する行動に彼の母親を導いたためであり、それゆえに統一教会とそれに賛同した政治家さえも罰する必要があると彼は判断しました。基本的に、暗殺者は統一教会・家庭連合を邪悪な「カルト」だと考えています。
この言葉を定義した国際的な反カルト運動にとって、統一教会は典型的な、そしてステレオタイプ的な「カルト」だったことは確かです。辞書に載っている「カルト」の定義は統一教会には当てはまりません。しかし、反カルト運動が日本を含む世界を乗っ取り、「カルト」に関する独自の定義とリストをメディアに押し付けているので、こうした興味深いけれども、政治的には不適切な状況が起きているのです。 欧米では、学界、裁判所、そして少なくとも一部の良質なメディアは、この侮蔑的で差別的な用語を放棄しています。しかし、日本ではそうではないようです。2022年12月13日、欧州人権裁判所は、これまでの判例を大幅に修正し、「トンチェフ他対ブルガリア」の判決において、国や地方自治体は、公文書やキャンペーンで宗教的マイノリティーを差別するために「カルト」という言葉やその他の類似表現を使用することはできないと判示しました。その言葉が本質的に差別的であり、暴力を生み出す可能性もあるからです。私が知る限り、大きな国際的関心を呼んだこの判決も、日本ではほとんど議論されたことがなく、言及されることさえありません。この国では、当局が宗教的マイノリティーを「カルト」や「反社会的」組織と呼んで差別するという、危険な道を歩み続けているようです。

Marco Respinti is an Italian professional journalist, member of the International Federation of Journalists (IFJ), author, translator, and lecturer. He has contributed and contributes to several journals and magazines both in print and online, both in Italy and abroad. Author of books and chapter in books, he has translated and/or edited works by, among others, Edmund Burke, Charles Dickens, T.S. Eliot, Russell Kirk, J.R.R. Tolkien, Régine Pernoud and Gustave Thibon. A Senior fellow at the Russell Kirk Center for Cultural Renewal (a non-partisan, non-profit U.S. educational organization based in Mecosta, Michigan), he is also a founding member as well as a member of the Advisory Council of the Center for European Renewal (a non-profit, non-partisan pan-European educational organization based in The Hague, The Netherlands). A member of the Advisory Council of the European Federation for Freedom of Belief, in December 2022, the Universal Peace Federation bestowed on him, among others, the title of Ambassador of Peace. From February 2018 to December 2022, he has been the Editor-in-Chief of International Family News. He serves as Director-in-Charge of the academic publication The Journal of CESNUR and Bitter Winter: A Magazine on Religious Liberty and Human Rights.


