厚生労働省のガイドライン 親が子どもに宗教を教える権利を大幅に制限
マッシモ・イントロヴィーニャ(Massimo Introvigne)
第1部
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日本はここ数カ月,少なくとも民主主義国家の中で,信教の自由を制限しようとする政府と,信教の自由を擁護しようとする人々との間の際立った対立の舞台になっている。
2022年7月8日,旧統一教会の信者である母親が教団に多額の献金をしたことで経済的に破綻したと考えた息子が,安倍晋三元首相を殺害した。犯人であるその息子によると,旧統一教会(世界平和統一家庭連合)関連の団体が後援するイベントに参加した安倍氏を罰したかったのだと言う。
母親が旧統一教会に献金していなければ息子が安倍氏を殺害することはなかっただろう,という奇妙な論理に基づいて,日本のほとんどのメディアは,殺害を非難するよりも,旧統一教会に対してこれまでにないバッシングを始めた。その後,旧統一教会の解散を視野に入れた調査が始まり,宗教団体に対する献金を制限し,献金を取り消すことを可能にする法案が可決された。
こうした動きはさまざまな副産物を生みだした。中でも特に憂慮すべきなのは,厚生労働省が2022年の年末に発表した1つの文書である。「宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A」と題するその通達は,日本中の自治体に送られた。この通達は,宗教団体への献金を規制する法律とは異なり,英語圏の人々からはほとんど注目されることがなかった。1つの例外は,2023年1月7日付のフィナンシャル・タイムズ紙(英語)の記事だ。
その記事で,東京特派員レオ・ルイスはこう書いている。「日本は決定を急ぐあまり,極めてセンシティブな宗教上の問題について十分に議論しなかった。そのため,非常に多くの団体やその活動に対して,想定した以上の影響が及びつつある」。ルイスは,この通達が「日本の神道や仏教といった主要な宗教に加え,キリスト教にも」影響を与えかねないことを指摘し,「当初考えていたよりずっと深刻な政治的反発に遭う可能性がある」としている。

どういうことだろうか。ルイスによると,このガイドラインは「主に旧統一教会を念頭に置いたものであり,同教会を解体させる」ことを意図したものだ。だが,このガイドラインを作成した関係者は,この事件後に高まったエホバの証人や保守的なキリスト教団に対するバッシングのことも意識していたようだ。
このガイドラインが作成された当初の意図は良いものだったのだろう。内容を見ると,児童虐待は決して容認されるべきではなく,信教の自由を言い訳にすることはできないとしている。この点は同意できる。しかし,問題なのは,このガイドラインが,児童虐待を宗教や信仰という文脈で定義しようとしていることだ。まず取り上げている事例は「身体的虐待」だ。自治体に対し,日本では体罰が違法であり,たとえ宗教上の理由によるものであっても正当化されないと注意喚起している。
それほど知られていないことだが,この見方は,保守的なキリスト教団体が存在するドイツなどの国でかなりの論争となっている。そうした団体は,聖書は軽度の体罰を認めていると考えているからだ。しかし今では,民主主義国の多くが,体罰を違法としている。
このガイドラインが他と異なっているのは,親が子どもを宗教活動に参加させる際,「長時間にわたり五体投地等の特定の動きや姿勢を強要する」ことも身体的虐待であるとしているという点だ。確かに,行き過ぎた行為があり得ることは分かるが,18歳未満の人が宗教活動に参加することを禁じられている中国を除き,未成年者が宗教活動の一環として座ったままでいることや,礼拝中何度かひざまずいたりおじぎをしたりするよう求められることは決して珍しくない。そのような行為は,親と一緒に宗教活動を行っていく上で欠かせない。
このガイドラインの新しい点は,宗教に関連した「心理的虐待」を定義していることだ。児童に「宗教活動等への参加を強制すること」や「『~をしなければ/すれば地獄に落ちる』……などの言葉や恐怖をあおる映像・資料を用いて児童を脅すこと」によって何かをするよう仕向けることと定義している。
今では時代遅れかもしれないが,私の年代のクリスチャンは子どもの頃,カトリックの司祭やプロテスタントの牧師から,悪いことをしたら地獄に落ちると言われたものだ。親からもそう言われた。「恐怖をあおる映像・資料」を規制するこのガイドラインによれば,ダンテの「神曲」に出てくる生々しい地獄の絵も,日本では子どもに見せてはいけない,ということになる。また,日本の旅行会社は,ピサのカンポサントという有名な墓所や,悪人が死後に悪魔から苦しめられている場面(仏教で教えられている「八寒地獄」の方がまだましだろう)を描いたフレスコ画や絵画が飾られた,ヨーロッパ各地にある大聖堂には子ども連れの家族を案内してはいけない,ということになる。

また,ガイドラインは,児童に対し「社会通念上一般的であると認められる交友」を制限し,誕生日会に参加させない(日本ではエホバの証人だけが該当する)ことや,「社会通念に照らして児童の年齢相応だと認められる」アニメ,漫画,ゲームなどを禁止する行為を,宗教に関連した「心理的虐待」としている。
これは小さな点に思えるかもしれないが,このガイドラインの全般的な考え方を明らかにしている。つまり,宗教を信じる人は,「社会で一般に受け入れられている」のとは違う生き方を子どもに教える権利がないとしているのだ。明らかな通り,多くの宗教は,「一般に受け入れられている」ことが実際には道徳的退廃であり,不適切だと教えている。
こうした考え方が,本ガイドラインの他の点にもどのように表れているか,次の記事で取り上げる。

Massimo Introvigne (born June 14, 1955 in Rome) is an Italian sociologist of religions. He is the founder and managing director of the Center for Studies on New Religions (CESNUR), an international network of scholars who study new religious movements. Introvigne is the author of some 70 books and more than 100 articles in the field of sociology of religion. He was the main author of the Enciclopedia delle religioni in Italia (Encyclopedia of Religions in Italy). He is a member of the editorial board for the Interdisciplinary Journal of Research on Religion and of the executive board of University of California Press’ Nova Religio. From January 5 to December 31, 2011, he has served as the “Representative on combating racism, xenophobia and discrimination, with a special focus on discrimination against Christians and members of other religions” of the Organization for Security and Co-operation in Europe (OSCE). From 2012 to 2015 he served as chairperson of the Observatory of Religious Liberty, instituted by the Italian Ministry of Foreign Affairs in order to monitor problems of religious liberty on a worldwide scale.


