安倍晋三元首相銃撃事件の後に始まった反カルトキャンペーンは,ヘイトスピーチだけでなく身体的暴力も引き起こした。2人の女性が体験を語る。
マッシモ・イントロヴィーニュ
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私たちは70代の快活な女性,Sさんとその夫にも会って話を聞いた。その体験はさらに衝撃的で,全国ニュースにもなった。2023年6月彼女は広島の隣の県(島根県)の,知的富裕層が住む職員宿舎で戸別伝道をしていた。Sさんは玄関のベルを鳴らし,7,8段ある階段を背にして立っていた。すると中年の男性が出てきてSさんの脇腹を蹴ったので,Sさんは階段から転落し,右手首を骨折してしまった。
Sさんはこの時,数人の仲間の信者たちと伝道していたのだが,その中にいた長老が彼女を病院に連れて行った。Sさんはこう話している。「とても怖かったです。もし警察に通報したら,あの男性が仕返ししてくるんじゃないかと思ったので,『警察には通報しないで』とずっとみんなに言っていました」。だが,病院のスタッフには事実を隠せなかった。翌日に手術が行われることになり,最終的に長老が警察に通報することになった。
Sさんが病院から帰宅すると,警察がやってきて,Sさんに事件を再現させ,写真を撮っていった。後日,Sさんはマスコミを通じて,その男性が逮捕されたことや,57歳の大学准教授であることを知った。Sさんは,「大学の准教授には全く見えなかったので,びっくりしました」と言った。男性が勤める大学も驚き,謝罪を表明したが,男性を短期間の停職処分にしただけだった。
数週間後,Sさんは検察官から連絡を受け,起きたことをもう一度話さなければならなかった。「怒ってはいませんが,今でも怖いです」とSさんは言った。「私はあの人に刑務所に入ってほしいわけではありません。ただ,二度と会いたくないんです。裁判であの人と顔を合わせる気力もないと思ったので,法テラス(日本司法支援センター)という所に行って相談したら,私の代理人になってくれる女性弁護士を探してくれました。彼女は相手の弁護士に連絡し,和解が成立しました。私は賠償金を受け取り,その准教授は今後私を探したり接触したりしないと約束しました」。