宗教的マイノリティーに対してどのように憎悪が作り出され、仕向けられるかは、「暴徒心理」の典型的な例である。
マッシモ・イントロヴィニエ
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1895年、フランスの人類学者ギュスターヴ・ル・ボンは、後に非常に影響力ある著作となった『群衆心理』を出版した。学術的な批判がなかったわけではないが、それは後にレーニン、ヒトラー、ムッソリーニによって研究され、彼ら全員がこの本からヒントを得たことを認めている。ル・ボンは新しい科学を確立し、それを「群衆心理」と呼んだ。しかし、彼が描写した群衆のほとんどは社会に対する破壊的な行動に夢中になっており、現在の英語では「モブ」すなわち「暴徒」と呼ぶ方がふさわしいであろう。
ル・ボンは、暴徒を作り出す三段階のプロセスについて説明した。その一つ目は暗示である。彼は現代社会の市民はメディアやプロパガンダによって簡単に影響を受け、操作されていると信じていた。彼がこれをテレビやインターネットが出現するはるか以前に書いたことを思えば、予言的なコメントである。第二段階は伝染である。昨今のパンデミックを通して、我々はウイルスの拡大は目に見えず、誰にも止められないことを知っている。ル・ボンは、今日私たちがフェイク・ニュースと呼んでいる神話や誤った情報でも、同じことが起こると指摘した。
ル・ボンの第三段階は匿名性であった。暴徒の中にいる個人はお互いを知らないかもしれないが、彼らは同じ行動を示し、「集団心理」によって統治されているように見える。それはまるで、目に見えない巣の中心で彼らの行動を管理している悪質な蜘蛛のようである。匿名で行動し、何百万人もの人々が同時に同じことをしているのを知っているので、暴徒の中にいる人々は自分には個人的な責任がないと信じており、無敵感に陶酔する体験をしているのである。
ル・ボンの本は驚くほど現代的で、現代のソーシャル・メディアを念頭において書かれているかのようだ。匿名性に保護され、暴徒のようなサイバー戦争に参加している何百万人もの自称戦士たちは、法的責任から逃げられると信じてターゲットを侮辱し、自分たちは無敵の軍隊の匿名の兵士であると感じているのだ。
安倍晋三元首相の暗殺事件後、日本は暗示、伝染、匿名性によっていかに暴徒が作り出されるかについての典型的な事例を目撃している。暗殺犯は、安倍元首相が統一教会・家庭連合の関連団体のイベントに出席したので、彼を成敗したかったと主張した。殺人犯は、彼の母親が所属している教会に対する過度な献金によって、彼女が破綻したと信じていた。
何が起こったかは明らかである。安倍を殺した犯人がいて、被害者がいる。被害者は安倍自身であり、殺人犯がその指導者を殺そうと計画した統一教会もまた被害者だ。しかし、暴徒の心理は論理や事実とは無関係に働くのだ。
暴徒は自発的に形成されるものではない。日本の統一教会には強力な反対者がいて、彼らはメディアに暗示を拡散し、教会は被害者ではなく、安倍の死に対して何らかの責任を負っているのだと多くの人々に信じ込ませた。暗示は伝染によって拡散され、匿名の暴徒が形成されていった。そこでは、お互いに面識のない個人が集団心理に従い、侮辱し、脅迫し、ときには罪を犯したが、群衆の一部であることや、電話やコンピューターの後ろに隠れることによって守られていると感じていた。
安倍の暗殺から8月20日までの間に、日本統一教会は約150件の嫌がらせを受けたことを記録した。しかし、それはいまも継続中であり、おそらくその数はもっと多いであろう。なぜなら、個々の教会員に対する侮辱や脅迫は必ずしも本部に報告されないからである。
これらの事件の記録を吟味してみれば、憂慮すべき事態であることが分かる。ル・ボンの時代には存在しなかったテクノロジーによって、今日の群衆が如何に簡単かつ迅速に形成されているかを、それは示しているのである。家庭連合の本部や支部に脅迫電話をかけた人々の言葉が録音されているのだが、その多くが「報道を読んだ」とか「テレビを見た」などの言葉で始まっていた。暴徒心理学の典型的なプロセスを通じて、彼らは自分が聞いたことを信じ、メディアが「真実を語る」のは当然だと説いた。彼らは自分たちが統一教会についての即席の「専門家」になったと信じていただけでなく、「何かをして」私的制裁を加える準備ができているとも感じていたのである。
彼らが、統一教会が「安倍を殺した」ことを自分は知っていると信じ、それを電話口で叫んだり、インターネットに書き込みをしたのは、彼らがそれを読んだり、テレビで聞いたりしたからであった。しかし、実際に安倍を殺したのは教会の狂信的な反対者であった。彼らはまた、統一教会は「洗脳を用いる」とか「罪を犯している」と主張したが、洗脳は新宗教運動を研究する主流の学者たちによってはるか以前に疑似科学として否定された概念である。
また、電話やコメントの一部には、不穏な人種差別的な含意があった。「韓国人は韓国に帰れ。」「韓国人が関心あるのはお金だけだ。」「きさまらは韓国の反日団体だ。」たしかに統一教会の創設者は韓国人であるが、日本の信徒は圧倒的に日本人が多いのである。
まさにル・ボンが予言したとおりに、匿名性と責任がないという中毒性感情が、これらの暴徒を次第に犯罪へと駆り立てている。7月17日、何者かがネットの掲示板に「明日の朝、本部教会に行って、全員ナイフで殺してやる」と投稿した。愛知、北海道、大阪の統一教会も殺害予告を受けている。奈良では、牧師に対する殺害予告を警察に報告した結果、予防措置として地方教会が閉鎖されることとなった。
東京、奈良、大阪では、街宣車が教会周辺を回りながら、敵対的なスローガンを叫んだ。その一部は過激な右翼が行ったもので、8月4日に大阪で行われた際には、「韓国の反日団体は、日本から出ていけ!」と叫んだ。
愛知では、8月15日に教会の郵便受けが黒く塗りつぶされ、安倍の暗殺者を称える落書きがスプレー塗料で描かれた。
これらすべてのことの危険性を十分に理解するために、我々はル・ボンに帰る必要がある。一つや二つの個別の事件は些細なこととして片付けられてしまうかもしれないが、殺害の脅しが実際の暴力にエスカレートする可能性は常にある。百件以上の事件は、いまや匿名の自称自警団という群衆が稼働中であることを示している。彼らはお互いのことを知らないが、全員が群衆の中心に存在する悪質な蜘蛛によって操られているのである。その蜘蛛は憎悪し、中傷し、差別し、いつの日か誰かを殺すかもしれない。